ショウジョウバエ実験法(初級編)

目 次

遺伝子記号

バランサー染色体

交配様式

遺伝地図

細胞学的地図



遺伝子記号

 ショウジョウバエの歴史は遺伝学の歴史と言っても過言ではなく、研究材料としての歴史が長いため、遺伝子の命名法のルールは比較的新しく導入された大腸菌、酵母、線虫などの実験生物のようには整備されていません。Morgan の時代に用いられていた記号を生かしたままその後の遺伝学の発展に合わせようとするとどうしても無理が生じてしまうのです。そのため、他の生物の遺伝子記号に慣れた人からみると、一見、目茶苦茶であるかのような印象を受けるかも知れません。しかし、一方では、命名法のルールが緩いために、名前から表現型を類推しやすいとか、ユニークな名前のために覚えやすいといったメリットもあります。以下は、ショウジョウバエの研究者の間で慣習的に採用されている突然変異遺伝子や染色体異常の命名法の主要なものを示します。

(1) 野生型(wild type)

 ショウジョウバエは、遺伝学の実験材料として研究室に導入されたという経緯があるため、ヒトや栽培植物の場合などとは異なり、野生型つまり正常型がわかっています。したがって、突然変異遺伝子などは、野生型を基準にして命名するという習慣が確立されています。しかし、野外にいるハエにも遺伝的変異が存在するので、典型的な野生型のハエとは何かが問題になります。特にルールはありませんが、Oregon-R や Canton-S とかいった「名門」野生型系統が世界中の研究室で用いられているために、これらの系統を標準にするのが一般的です。くわしく調べると、これら「名門」系統の間にも若干の違いが見られますが、普通、あまり問題になることはありません。  

(2) 遺伝子名と遺伝子記号

 ある遺伝子の存在が明らかになった場合、その特徴などを表す名前を付け、それを省略した遺伝子記号を定めます。遺伝子記号は、1〜4文字のアルファベットと括弧、数字などで表します。遺伝子名や遺伝子記号は、発見者が先取権を持ち、名付け親になることができますが、すでに使われているものは使えません。1文字の遺伝子記号はすでに大昔に使われてしまっており、2文字のものも多くが使われていますので、最近は3文字以上のものが少なくありません。遺伝子名や遺伝子記号はイタリックで書くことが習わしです。名前の付け方は、おおむね、以下のルールによります。

 教科書や参考書などでは、whiteを「白色眼」、blackを「黒体色」といったように、遺伝子の名前を日本語に翻訳していることが少なくありません。教育目的で用いることは、一概に悪いとは言えませんが、本来、遺伝子名は人の名前のように固有名詞であり、訳すことはできません。pink(p)Star(S)tailless(tll)といった遺伝子名を日本語に訳すと、その表現型について誤解を生じやすいし、oskar(osk)seven up(svp)なんてのは訳しようがありません。

(3) 対立遺伝子

 一つの遺伝子座で、複数の対立遺伝子が知られていることはごく一般的で、多いものでは、対立遺伝子が何百も見つかっている遺伝子座もあります。これらの対立遺伝子を識別するため、固有の記号が付けられます。かならずしもきちんとしたルールがあるわけではありませんが、以下のような慣例があります。  

(4) 染色体突然変異

 ショウジョウバエには多数の染色体異常が知られており、研究に大変役に立っています。染色体突然変異には多くの種類がありますが、主要なものについて命名法を示します。

(5) 遺伝子型

 遺伝子型の表記法には単一のルールはなく、状況に応じて使い分けがなされています。ただし、高校の教科書でよく見られるように、2つの遺伝子記号を並べてwwxxyyといった書き方はしません。遺伝子記号が2文字以上のものが大部分ですので、このような書き方をすると、どこまでが一つの遺伝子を表すのかわからなくなってしまいます。例えば、hairy(遺伝子記号はh)とhedgehoghh)は何れも第3染色体上の突然変異遺伝子ですが、両方ともホモ接合である場合に、hhhhhhと書くと何がなんだかわからなくなってしまいます。遺伝子型の表記は、以下のようなルールが慣例化しています。

(6) 表現型

 表現型は、論文などの正式な場では突然変異のフルネームで書くのが習わしです。この場合、イタリックにはしません。
 (例)white-apricot、fushi tarazu、cinnabar brown など

 しかし、遺伝子名の中には、neither inactivation nor afterpotential E (ninaE)とかbride of sevenless (boss)といった長ったらしいのもあって、フルネームで書くのは面倒なので、遺伝子記号を[ ]でくくって表現する非公式な習慣も広く見られます。
(例)[wa]、[ninaE]、[boss] など


バランサー染色体

 ショウジョウバエの遺伝学の長い歴史の中で、さまざまな有用な遺伝的資源が開発されてきましたが、中でも、バランサー染色体と呼ばれる特殊な染色体はもっとも重要であり、ショウジョウバエ遺伝学を特徴づけるものといえます。もし、バランサー染色体が開発されていなかったら、現在のようにショウジョウバエが重要な研究材料としてもてはやされることは決してなかったでしょう。

バランサー染色体とは

 バランサーという名前は、平衡致死系(balancing lethal system)に由来します。そこで、平衡致死系とはどのような現象かを最初に説明することにします。

  染色体逆位についてヘテロ接合の雌では逆位内の遺伝子座間の組換えが抑制される
 逆位染色体と正常染色体についてヘテロ接合の雌の減数分裂の際に、逆位の範囲内で乗換えが起こると、乗換えを起こした染色体は、動原体が2個になったり、動原体が無くなったり、あるいは重複や欠失などの染色体異常が生じます。このような異常な染色体は、卵核に入らないか、あるいは入ったとしても、このような染色体異常をもつ卵は発生過程で死んでしまいます。その結果、逆位内で乗換えを起こした染色体は子孫に伝えられないことになり、一見、乗換えが起こらないかのように見えます。つまり、見かけ上、逆位内で組換えが抑制されることになります。

  逆位によって2つの異なる劣性致死遺伝子をバランスさせることができる
 逆位ヘテロで組換えが抑制されることを利用すると、2種類の異なる劣性致死遺伝子を、常にヘテロ接合の状態で維持することができます。いま、逆位を持つ染色体の逆位領域内に劣性致死遺伝子l1があり、正常染色体上には、別の劣性致死遺伝子l2があるとします。逆位染色体と正常染色体のヘテロ接合の個体の遺伝子型は、l1 +/+ l2 となります。このような遺伝子型を持つ個体同士の交配からは、l1 +/+ l2l1 +/l1 ++ l2/+ l2という3種類の接合体が生ずるはずですが、後の2つは、劣性致死遺伝子がホモ接合になっているため、発生の途中で死んでしまいます。したがって、子供には、親と同じ遺伝子型l1 +/+ l2を持つものしか出現しません。このようにして、逆位の範囲内にある2種類の劣性致死遺伝子は、互いにバランスしあっていつまでもヘテロ接合の状態が維持されることになります。これが可能なのは、逆位内で組換えが起こらないということが重要です。もし、組換えが起こると、l1 l2/+ +という個体が生じ、さらには、+ +/+ +が生ずるため、致死遺伝子は失われてしまいます。 これと同じ原理で、劣性の不妊突然変異もバランスさせることができます。

  複数の逆位を組み合わせると染色体全域にわたり組換えを抑制できる
 逆位の範囲内で2重の乗換えが起こると、異常な染色体が作られないので、逆位が大きい場合には組換えを完全に抑えることができません。そこで、1本の染色体上に、小さな逆位をいくつか持たせたり、逆位の上にさらに別の逆位をオーバーラップさせたりすることによって、染色体全域にわたって組換えがほぼ完全に抑制されるような特別な染色体が作られてきました。このような染色体をバランサー染色体といいます。図1には代表的なバランサー染色体であるSM1およびTM3がそれぞれどのような重複逆位を持つかを模式的に示したものです。ボックスで示した範囲が一つの逆位領域を表します。

  バランサー染色体は優性可視マーカーを持つ
 ある個体がバランサー染色体を持っているかどうかがわからないとと不便です。そこで、バランサー染色体には、ヘテロ接合でも区別ができるように優性の可視突然変異を少なくとも1個持たしてあります。また、常染色体のバランサーの場合、平衡致死系が利用できるように、劣性致死遺伝子を持たせてあります。優性マーカーが同時に劣性致死遺伝子をかねることもあります。

バランサー染色体の種類

 マラー(Muller, H. J.)によってX染色体のバランサーClBが1928年に発表されて以来、多くの研究者の努力によって新しいバランサーの開発や改良が行われて来た結果、現在ではきわめて多くの種類が存在します。以下、主要なものを紹介します。

バランサー染色体の使い方

 バランサー染色体は、ショウジョウバエの遺伝学ではあらゆる場面で登場します。バランサーなしではショウジョウバエの遺伝学は成り立たないといっても過言ではないでしょう。というわけで、さまざまな目的で使われていますが、ここでは、その代表的なものを、常染色体バランサーを例にして紹介することにします。

  致死突然変異や不妊突然変異を維持する
 現在、ショウジョウバエは発生学の分野で大活躍していますが、その理由の最大のものは、多数の発生異常突然変異が存在することです。このような突然変異の多くは劣性致死突然変異です。また、生体にとって重要な機能を果たしている遺伝子に生じた突然変異は、通常、致死になります。致死突然変異以外にも、不妊突然変異、つまり子供のできない突然変異も数多く存在します。ショウジョウバエになじみのない人は、このような突然変異系統をどうやって維持しているのか不思議に思うことが少なくないようです。
 マウスなどの実験動物でも、このような突然変異は数多く知られていますが、これらの系統を維持するには、ヘテロ接合の状態で継代することが必要があり、毎代、子供を調べるなどの方法によって遺伝子型を確認しなければならず、大変な手間と費用がかかります。ショウジョウバエの場合は、バランサー染色体のお蔭で、致死突然変異や不妊突然変異を維持するのは至って簡単で、普通の系統を維持するのとなんら変わりません。
 劣性致死突然変異の例で説明すると、正常染色体上の劣性致死遺伝子とバランサー染色体とのヘテロ接合個体同士の交配からは、親と同じ遺伝子型を持った個体しか生じないのです。致死遺伝子、バランサー染色体のいずれのホモ接合個体も死んでしまうからです。このようにして、永久にヘテロ接合の状態で維持できるのです。ホモ接合個体は発生の途中で死んでしまうのですが、少なくとも卵は生まれてきますので、どのような発生異常が見られるかといったことを調べることは可能です。
 このようなことが可能になるのは、バランサー染色体と正常染色体との間で組換えが抑制されているためです。仮に、組換えが起こるとすると、維持したい致死遺伝子とバランサー染色体上のの致死遺伝子の両方を持つ染色体が生じ、このような染色体は速やかに淘汰されてしまうため、致死遺伝子は失われてしまいます。

  染色体全体をホモ接合にする
 バランサー染色体を利用すると、ショウジョウバエの染色体上の何千もの遺伝子座について、一挙にホモ接合にすることができるだけでなく、全く同一の遺伝子型を持つクローン個体を必要なだけ作ることが可能です。このような遺伝学的な操作が可能な生物はショウジョウバエだけです。第2染色体のバランサーを用いた、通称、Cy-Pm法と呼ばれる方法を例にしてその原理を説明することにします。(図2参照)

 この原理は、新しい突然変異を探し出す目的にも広く用いられています。突然変異の多くは劣性であるため、ホモ接合にしないと表現型として見ることができません。また、劣性致死突然変異に至っては、見ることすら不可能です。上記の例で説明すると、G0世代に交配する雄を、放射線や突然変異を誘発する化学物質で処理しておくと、第2染色体上の遺伝子座に生じた劣性突然変異はすべてG3世代でホモ接合になりますので、能率良く目的とする突然変異を得ることができます。致死突然変異や不妊突然変異の場合には、きょうだいがバランサー染色体とのヘテロ接合なので、そのまま系統として維持することが可能です。

 複数の突然変異遺伝子を組み合わせる
 遺伝子座間の相互作用を調べたりする目的で、複数の突然変異遺伝子を同時に持つ系統を作成しなければならないことがしばしばあります。このような場合、バランサー染色体をうまく使ってやるときわめて能率良く目的とする系統を作成することができます。図3に示したのは、第2染色体と第3染色体にある2つの劣性致死突然変異を組み合わせる際の交配様式の一例ですが、このような作業をバランサー染色体を使用せずに行うことはほとんど不可能といってよいでしょう。

交配様式

 図2や図3のような交配実験を行う場合、交配様式図(交配図)をあらかじめ用意しておくのが大切です。特に複雑な交配実験の場合、必要なハエを選んだり、交配したりする際に、常に交配図をみながら行うようにしないと、誤って必要なハエを捨ててしまい、何カ月かを無駄にすることも少なくありません。
 交配図の書き方には特に定められたルールがあるわけではありませんが、習慣として以下のようなものがあります。

 交配図を作る際に注意すること

遺伝地図

組換えによる遺伝地図作成の原理

 モーガンの弟子の一人であるスターテバント(Sturtevant)は、乗換えとその結果で ある組換えを利用すると遺伝子座間の距離を測定でき、これにもとづいて染色体上の 遺伝子座の位置を示す地図(遺伝地図)を作成できることに気付きました。乗換えが染色体のどこでも一様に起こると仮定すれば、注目した2つの遺伝子座の間で乗換えの起こる確率は、遺伝子座間の物理的な距離に比例するはずで、したがって、乗換えの頻度がわかればそれから相対的な距離が推定できるというのがその原理です。
 しかし、乗換えそのものを直接観察することはできないので、乗換えの結果である組換えの頻度から乗換えの確率を推定します。当初、乗換えは2本の相同染色体の間で起こるものと想定されたため、二重乗換えが無視できるような近い距離にある遺伝子座の間の組換えの頻度(組換え価) は乗換えの確率に等しいと考えられていました。そこで、組換え価=仮想的な乗換え価とみなして組換え価そのものを距離の単位として用い、1%の頻度で組換え型配偶子を生ずる距離を1センチモーガン(1cM)と定義しました。したがって、 地図距離を示す数値そのものは組換え価から求めますが、その意味するところは乗換えの頻度の推定値に他なりません。
 現在用いられている遺伝地図は、このような原理にもとづいて、可能な限り短い距離にある遺伝子座の間の組換え価を求め、それを積み重ねて作られたものです。ですから、注目した2つの遺伝子座間の地図距離は、その遺伝子座の間で起こる乗換えの頻度に比例するとみなして差し支えありません。
 その後、乗換えは染色体の複製後に起こることがショウジョウバエやアカパンカビ などを用いた研究によって明らかになり、これだと組換え価は50%を越えないことから、地図距離は乗換え頻度の1/2に相当することがわかりました。すなわち、平均1回乗換えが起こるような距離が50cMに相当することになります。ショウジョウバエの第2染色体と第3染色体の長さは何れも100cMを越えていますが、これは、平均2回以上の乗換えが起こることを意味します。
 なお、第4染色体では、通常、乗換えが起こりませんので、普通の方法では地図を作ることができません。第4染色体の地図は、3倍体の雌では乗換え率が著しく増加し、第4染色体でも乗換えが起こることを利用して作成されたものです。

地図関数

 注目した2つの遺伝子座の間で多重乗換えが起こると、組換え価から推定された地図距離は過小推定値になります。これを考慮に入れて組換え価と乗換え価の関係を示す関数を一般的に地図関数といいます。ヒトや家畜など、十分に近い距離のマーカー遺伝子を利用できない生物では、離れた距離にある遺伝子座間の組換え価しか求められないことが多いので、地図関数を利用して正しい地図距離を推定することが広く行われています。しかし、ショウジョウバエの場合は、すでに詳細な遺伝地図が作られているため、このような補正が必要になるケースはまれです。そこで、ここでは地図距離から組換え価を推定する方法を説明します。
 地図関数として広く用いられているものに、ホールデン(Haldane)の式とコサンビ(Kosambi)の式があります。この違いは、ホールデンの式では、乗換えがランダムに起こることを仮定しているのに対して、コサンビの式では、干渉を仮定していることです。実際には干渉が見られますので、コサンビの式の方が現実的ですが、干渉の強さは染色体の場所によっても変化するため、いずれの式を用いても完全に補正できるわけではありません。

 モーガン単位(M)で表した地図距離をdとすると、組換え価rは以下の式で表すことができます。

   ホールデンの式: r = (1-e-2d)/2

   コサンビの式:  r = (tanh2d)/2    (tanhは双曲線関数)

  これから、50cM離れた遺伝子座間で予想される組換え価を求めると、ホールデンの式からは、31.6%、また、コサンビの式からは、38.1%となります。遠距離の場合は、このように両者の差はかなり大きくなりますが、もっと短い距離、例え10cMだと、それぞれ、9.1%と9.9%となり、大差なくなります。つまり、10cM以下の距離にある遺伝子座間の組換え価は地図距離とほぼ等価と見なせます。

キイロショウジョウバエの遺伝地図

 X染色体: 動原体から最も遠い末端側が0cM。全長は約66cM。

 第2染色体:  左腕の末端が0cM。動原体位置は約54cM。右腕の末端は約107cM。

 第3染色体: 左腕の末端が0cM。動原体位置は約47cM。右腕の末端は105cM。

 (注)染色体の末端部および動原体近傍では組換え価が低いため、地図上の位置は他の場所に比べてあいまいになる。

細胞学的地図

 ショウジョウバエでは唾腺染色体という巨大な多糸染色体が存在し、5000を越える独特のしま模様(バンド)が観察できることを利用して、染色体上の遺伝子座の位置をマッピングすることができます。このようにして作られた地図を細胞学的地図と呼びます。唾腺染色体上の遺伝子座の位置を決めるためには、昔は欠失染色体を用いるのが主な手法であり、このために、劣性突然変異が存在しないような遺伝子座の位置を決めることは、何らかの染色体異常を伴う場合以外は困難でした。しかし、近年の分子生物学的な技術の発展の結果、唾腺染色体上で直接DNAやRNAとのin situ ハイブリダイゼーションを行うことが可能になり、突然変異が知られていない遺伝子座でも、遺伝子の塩基配列が判明していれば、その位置を決めることが容易にできるようになりました。このために、近年は、細胞学的地図の方が遺伝地図より多く用いられるようになっています。

細胞学適地図の単位

 細胞学的地図では、遺伝子座の位置は唾腺染色体上の個々のバンドに対応させます。このために、すべてのバンドに固有の記号が付けられていますが、そのルールは以下の通りです。

 番号付き区画
 Y染色体以外の全染色体をほぼ等しい長さの102の区画に分ける。Xおよび第2、第3染色体の各染色体腕はそれぞれ20の区画にわける。各染色体腕の区画は以下のとおり。



   区 画     染色体腕       順 番


   1〜20   X染色体     末端部を1、動原体寄りを20とする
  21〜40   第2染色体左腕  左端を21、動原体寄りを40とする
  41〜60   第2染色体右腕  右端が60
  61〜80   第3染色体左腕  左端が61
  81〜100  第3染色体右腕  右端が100
 101〜102  第4染色体

 文字付き区画

  各番号付き区画をさらにA〜Fの6つの小区画に分ける。小区画は比較的わかりやすいバンドで区分するため大きさは不定。

  バンド番号

 各文字付き区画内のバンドに、左から1,2,3...の番号を付ける。各文字付き区画内のバンドの数はまちまちで、少ない場合は2本、多い場合には20本を越えるケースもある。
 特定のバンドを示すには、番号付き区画+文字付き区画+バンド番号であらわす。例えば、97D3は、第3染色体右腕の末端部に近い97区画D小区画内の左から3番目のバンドを意味する。また、遺伝子座が複数のバンドにまたがる場合や、座位が1本のバンドまで正確に決定されていない場合には、その範囲を97D3-5のように表す。さらに、小区画までしかわからない場合は97Dとする。

染色体突然変異の細胞学的表記

 染色体突然変異を細胞学的地図で示す場合のルールついて、主なものを以下に示します。中には、きわめて複雑な場合もありますので、これらはもっとも単純はものと考えてください。

 逆 位: In(染色体腕)逆転領域の左端;右端
      (例)In(2R)41A;59D

 欠 失:  Df(染色体腕)欠失領域の左端;右端
     (例)Df(2L)24F7-25A1;26A2-3

 転 座 : T(染色体1;染色体2)染色体1の切断点;染色体2の切断点
     (例)T(2;3)22A4-5;84B2-4
         第2染色体の左腕の先端部と第3染色体右腕の大部分を交換
        T(1;Y)20F1;YS
          X染色体の大部分をY染色体の短腕と交換

細胞学的地図と遺伝地図との関係

 染色体の場所によって乗換えの起こりやすさが異なるため、細胞学的地図と遺伝地図の間には直線関係は成立しません。しかし、これまでに判明している多数の遺伝子座の細胞学的地図上の位置と遺伝地図上の位置の関係から経験的な関数関係がわかっており、これを利用することによって、どちらか一方の地図上の位置がわかっていれば、もう一方の地図上の位置もかなり正確に知ることができす。