タイトル: 遺伝的変異と生物進化
実 施 者: 北村徳一・腰塚豊
実施場所: 法政大学女子高等学校
実 施 日: 2007年 2月 6日
受 入 者: 鈴木恵子 先生
対  象: 3年生有志6名
記入日時: 07/02/21 22:40:34

目的
現在、進化研究で主流となっている分子進化学・分子系統学・集団遺伝学の立場から、実際の研究やその方法を紹介し、さらに実習を体験することで進化学についてより深い理解と関心をもってもらうことを目的とした。また、受入者の依頼によりショウジョウバエの変異体観察も行った。


活動内容
2月6日
・アイソザイム電気泳動(9:00-10:45)
本学で系統維持しているショウジョウバエ3種4系統(キイロショウジョウバエの上海系統とナイロビ系統、オナジショウジョウバエの大分系統、モーリシャスショウジョウバエ)を用いて、タンパク質の電気泳動を行った。泳動後、アルコール脱水素酵素の活性染色を行い、バンドを得た。実験の待ち時間に電気泳動の原理や生物集団の遺伝的分化について講義を行った。

2月13日(9:15-10:25)
・分子系統樹作成
 哺乳類の高次分類群(単孔類、有袋類、有胎盤哺乳類)の系統関係を題材に、インシュリン様成長因子2受容体遺伝子(IGF2R)の塩基配列を用いて分子系統樹作成を行った。
 実習の事前に、あらかじめ単孔類2種、有袋類2種、有胎盤哺乳類7種のIGF2R遺伝子の塩基配列を用意し、実習では、ヒト相同遺伝子配列をGenbankから引き出し、用意したデータセットに加える作業から始めた。その後、アラインメント、系統樹作成を行い、形態から予想される系統関係と比較した。これらの解析は全てフリーソフトウェアMEGA3.1を使用した。系統樹作成の解説は、作業工程の合間に行った。
 実習は、コンピュータールーム(LL教室)で行い、1人PC1台を使うはずだったのだが、当日、あらかじめ用意したファイルをコピーできないPCがあり、結局、コピーできた3台を使用(2人で1台を共有)した。

・キイロショウジョウバエ変異体観察(10:30-10:55)
代表的な8変異体(Bar, white, eyemissing, Curly, vestigial, yellow, ebony, Antenapedia)と野生型について、生きている個体と麻酔をかけた個体それぞれを、実体顕微鏡で観察した。


感想・課題

<アンケート結果>
興味をもったこと
・同じショウジョウバエでも地域によって遺伝的構成が異なること。
・分子系統樹の仕組み。
・実際に変異体を観察することができて楽しかった。
・教科書で見ていたのより変異体の形の違いがはっきりと分かった。

よく分からなかったこと
・実験の手順の説明が分かりづらかった。
・アイソザイムのバンドの見分け。
・小進化と別種への進化とのちがい。
・変異体の観察で、時間があったら詳しい話(原因遺伝子)を聞きたかった。

実習全体の感想
・自分で実験をすることで、教科書ではピンとこなかったこともイメージし易くなった。
・パソコンがおかしくなって、時間が減ってしまい残念だった。
・進化とは必ずしも優れたものに変わっていくことではないと聞いて、少しイメージが変わった。
・興味の幅が広がった。

<実施者の感想>
今回のアイソザイム実習では、過去の反省を生かし、ぎりぎり時間内に終えることができた。講義においても、以前使用したパワーポイントのスライド等を改良してきたので、自分なりにうまく伝えられたように思う。一方、分子系統樹作成では、PCにトラブルがあり、時間を大分ロスした。最終的には、生徒2人でPC1台を使ってもらったが、これは想定外の事態であった。このような事態に対処するためには、現場でのトラブルを広く想定しておくことが重要だと感じた。ショウジョウバエ変異体観察では、分子系統樹作成での時間のロスのため、ほぼ観察のみになり、解説をする時間が取れなかったのが残念であった。生徒達は、変異体を初めてみたようで、皆興味深く観察してくれた。
今回は、生物に興味のある3年生ということで、講義でも反応があり、かなり手応えを感じながら進行することができた。進化について興味を持ってくれれば幸いである。(北村)

今年度はこれまでに2回アウトリーチを行っているが、講義や実習が一方的になりがちで、いかにインタラクティブな授業を実現するかが大きな課題だった。今回は、講義の進め方や説明内容の見直し等により、全体を通じてインタラクティブな授業を行うことができ、前回までの課題を解決できたと思う。生徒との相互のやりとりは、生徒に積極的な参加を促すと共に、個々の生徒の理解度や参加意欲の程度を把握するために、大変重要であると実感した。
私がメインで担当した変異体観察については、予期せぬ事態により授業時間が半減してしまい、講義内容を大幅に割愛せざるを得なかったのがとても残念だった。結果として説明不足になってしまったが、授業自体は好評だったので、良かったと思う。
今回は生徒達の参加意欲が高かったこともあって、非常に手応えのある授業を行うことができ、これまで以上に多くのことを学ぶことができた。人に物事を伝えたり説明したりする場は今後も多々あるだろうが、その時は今回学んだことを生かしていきたいと思う。(腰塚)