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生命科学科・大学院生命科学専攻
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研究室
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⇒応用生命科学領域
(大学院)
細胞遺伝学研究室
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脳神経系の機能など複雑な生命現象を分子、細胞、個体レベルで解明する研究を行っています。主な研究材料として、先端的な遺伝子操作技術を駆使できるショウジョウバエを使います。
所属教員
坂井 貴臣・教授hyperlink
朝野 維起・助 教
武尾 里美・助 教
研究室訪問の申し込みhyperlink
 大学院受験希望の方は、是非、研究室を見に来て下さい。
どのような研究をしているのか?
@本能行動および学習行動の神経遺伝学的研究
我々の研究室では、本能行動や学習行動が脳でどのように制御されているのかを明らかにする研究を行っています。キーワードは学習・記憶、性行動、睡眠、概日リズム、環境要因、ストレス、トラウマ、です。



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A神経遺伝学とは?
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     キイロショウジョウバエ
ショウジョウバエは遺伝学が発達しており、多くの突然変異体が利用可能で様々な遺伝子発現ツールが解発されています。ハエの遺伝学を利用すると、遺伝子の機能解析のみならず、特定の神経細胞を人為的に興奮させたり、逆に抑制したりすることができます。さらに、脳のどのニューロンが活動しているのかを視覚的に確認することもできます。そのような最先端の技術を駆使して本能行動や学習行動の研究を進めています。

<本能行動の神経遺伝学> 遺伝的発生過程に特段の異常はないのに、成虫の様々な行動(性行動、睡眠リズム、社会性行動、摂食行動など)が異常になる変異体を多数分離して、その原因遺伝子をつきとめ、本能行動を制御する脳神経回路やその動作原理を明らかにする研究を行っています。分子生物学,行動解析,脳イメージング解析などさまざまな実験技術を駆使して研究を進めています。

<オスの求愛学習> 行動を利用すると動物の記憶を測定することができます。我々の研究室ではショウジョウバエの求愛行動を利用した記憶測定法を用い、長期間保持される記憶(長期記憶)の獲得、および維持の分子メカニズムの解明を目指していいます。

【下図:求愛行動を利用した記憶の測定法】
一度交尾したメスは、求愛するオスに対して過度なストレス(性交拒絶、オスが忌避する匂い物質)を与えます。このメスからのストレス刺激にオスを長時間さらすと、その後、未交尾のメスとつがわせてもあまり求愛しなくなります。求愛条件付けでは、メスからストレスを受けたオスのトラウマ記憶により,求愛モチベーションが低下すると考えられています。

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                   求愛条件付け
B研究内容の紹介(一部です)
(1)環境光による長期記憶維持システムの解明
 動物は自身の経験を通して記憶を獲得し、それを維持して生存に役立てています。これまでに多くのモデル動物で記憶獲得の分子機構が明らかにされてきましたが、獲得した記憶を長期間維持する機構はよく分かっていませんでした。我々は、ショウジョウバエ(以下、ハエ)が環境光を利用して長期記憶を維持していることを発見し、この「光による記憶維持」の分子メカニズムを明らかにする研究を行いました。その結果、光により神経ペプチドPDF(神経伝達物質の一種)が放出されると、ハエ記憶中枢におけるCREBという転写因子が活性化し、記憶中枢で新規遺伝子が発現することで長期記憶が維持されることを突き止めました。この成果は、光の有無や遺伝学的な操作により、長期記憶の維持もしくは消失をコントロールできる可能性を示しています。現在はCREBのターゲットを明らかにする研究を進めています。

 長期記憶は一度獲得されると簡単には忘却されず、消去が困難です。そのため、トラウマによる記憶など、動物にとってネガティブな記憶が残り続けてしまうという弊害をもたらしてしまいます。我々の研究成果は、将来、トラウマ記憶の消去技術の発展に寄与するかもしれません。
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             光依存的な長期記憶維持システム
(2)長期記憶固定化の分子神経機序
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 動物は1日を通して様々な記憶を獲得しますが、翌日にはそのほとんどを忘れてしまいます。一方、非常にインパクトのある経験や同じ経験の繰り返しにより、獲得された新たな記憶は安定した長期記憶へと変換されます。この過程は「記憶の固定化」と呼ばれています。固定化されなかった記憶は脳神経系で短期間しか維持されず、消去されてしまいますが、一度固定化されれば、長期記憶として脳神経系に長期間維持され続けます。
 ハエでは、「キノコ体」と呼ばれる脳領域が記憶中枢であると考えられています。哺乳類の「海馬」に相当するような役割をハエの「キノコ体」が担っているわけです。長期記憶の固定化に必須と考えられているCREBという転写因子は、多くの動物種の記憶固定化に必須であり、また、学習中にCREBを介した新規タンパク質が合成されることで、長期記憶に固定化されると考えられています。

 我々はこれまで、「キノコ体」では発現していないのに、長期記憶固定化に必須な遺伝子を複数同定してきました。興味深いことに、それらの遺伝子は「時計ニューロン」と呼ばれる脳の特定のニューロンで発現していました。時計ニューロンとは、ハエの行動や生理機能において約24時間周期を作り出すのに必要な「時計遺伝子」が発現しているニューロンで、主に概日リズムの発生に寄与していると考えられているニューロンです。現在我々は、時計ニューロンと記憶中枢の関係を明らかにし、かつ、同定した複数の遺伝子の機能解明に取り組んでいます。

 我々の発見は、時計ニューロンの新規機能の解明に役立つばかりでなく、長期記憶固定化の分子神経機序の解明に貢献するでしょう。
(3)過剰ストレスによる性行動抑制 〜トラウマ記憶のショウジョウバエモデル〜
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     ビデオトラッキング
哺乳類では、過度なストレスによるトラウマ記憶によりオスの性的モチベーションが長期間低下することが知られています。しかし、そのメカニズムは謎に包まれています。
 最近我々は、昆虫であるショウジョウバエでも同様に過剰ストレスによりオスの求愛活性が低下することを見出しました。ショウジョウバエ遺伝学を利用して、ストレスにより求愛活性が低下するメカニズムを明らかにする研究を進めています。

 ビデオトラッキング解析、そして、光遺伝学と脳イメージングを駆使してストレスにより活性化するニューロンの同定と、ストレスが求愛を抑制する仕組みを回路レベルで解明することに取り組んでいます。、
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                 脳イメージング
関連リンク
(1)坂井貴臣 教員紹介ページhyperlink
(2)プレスリリース 2020年「環境光による記憶維持機構の発見」hyperlink
(3)雑誌 The Scientist の記事紹介hyperlink
(4)研究内容・業績の紹介hyperlink
(5)プレスリリース 2021年「体を形作る遺伝子が脳で記憶を根付かせることを発見!」hyperlink

©2020 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University