ショウジョウバエに関するFAQ



 
 




Q: どうしてショウジョウバエというのですか?

A: 猩々(しょうじょう)という架空の猿に似た動物の名前に由来します。 猩々は、真っ赤な顔をしており、お酒が大好きです。ショウジョウバエは赤い大きな目を持つので、顔が赤いようにみえること、ワインなどの お酒によく集ってくることなどから、ぴったりの名前です。
 俗名では、コバエ、コベ(小蝿)やスバエ、スベ(酢蝿)などと呼ばれることもあります。英語では、fruit fly(くだもの蝿)、vinegar fly(酢蝿)、pomace fly(くだものの絞り粕蝿)などと呼ばれます。いずれもショウジョウバエの生態をよく表しています。フランス語のla mouche du vinaigre も酢蝿の意味です。また、中国語では、果蝿と呼ばれます。
 学名のDrosophila ラテン語で「露を好む」という意味です。これは、ドイツ語の一般名であるTaufliege(露蝿)に由来します。


Q: ショウジョウバエにはどのくらい種類があるのですか?

A: ショウジョウバエというのは、双翅目(ハエ、カ、アブなどの仲間)ショウジョウバエ科に属するハエの総称 です。ショウジョウバエ科では、3000以上の種が知られています。研究材料としてもっとも広く使われているのは、キイロショウジョウバ エ(学名:Drosophila melanogaster Meigen)という種です。学名のmelanogasterは、直訳すれば「腹が黒い」という意味ですが、別に腹黒いわけではありませんので、誤解しないで下さい。


Q: ショウジョウバエは何を食べるんですか?

A: 種によってさまざまです。熟した果物、発酵した樹液、きのこなどに育つ自然の酵母 (イースト)がおもな栄養源ですが、花や植物の葉を利用するものもあります。たいていのショウジョウバエは、バナナが大好物で、採集には発酵させたバナナを使います。
 研究室で飼育する場合には、イースト、とうもろこしの粉、糖類を寒天 で固めた飼料を使います。水を加えて3分待てばできあがるインスタン トの飼料も市販されています。


Q: ショウジョウバエは何日くらいで親になりますか?

A: キイロショウジョウバエの場合、25℃で飼育すると、卵が生まれてから約220時間(10日弱)で成虫になります。成虫になった翌日には もう卵を産み始めるので、1年間で30代近くの世代を重ねることも可能です。


Q: ショウジョウバエの寿命はどのくらいですか?

A: 実験室で大切に育てると、60日位は生かすことができます。野外では、外敵も多く、環境条件も厳しいので、これよりずっと短いと考えられま す。


Q: ショウジョウバエはどれくらい子供を産みますか?

A: いい条件では、1匹の雌が1日に80個もの卵を産みます。ですから、1匹の雌が、1000匹以上の子供を残すことも可能です。


Q: ショウジョウバエはどこに住んでいますか?

A: ショウジョウバエの仲間は、南極や北極を除けば、世界中どこにでもみられます。研究にもっともよく使われるキイロショウジョウバエは、おもに人家の中を住み家としており、大抵の家庭でみられます。部屋の中で果物の皮をむいているときなどに、どこからともなく集まってくるのは、ほとんどがキイロショウジョウバエです。


Q: ショウジョウバエは眠りますか?

A: 昆虫に睡眠があるかどうかは長いこと不明でした。最近の研究によって、ショウジョウバエでも、睡眠とよく似た現象がみられることがわかってきました。夜の間、ハエはほとんど活動しないのですが、このときに寝ているようです。がたがたゆすったりして一晩中眠らせないようにしてやると、寝不足のためか、昼間に寝てしまうそうです。また、カフェインを飲ませると、人間と同じように、眠れなくなることもわかりました。眠るといっても、横になったり、いびきをかいたりするわけでははありません。


Q: 白眼のショウジョウバエは目が見えないんですか?

A: 白眼のハエも光を感じる色素(ロドプシン)は持っていますから、目は見えます。眼の赤い色素は、人間の眼の虹彩と同じような役割を持って いますので、白眼のハエは、像がシャープに見えないと考えられます。


Q: 白眼のショウジョウバエはどうやって作ったのですか?

A: 白眼のショウジョウバエは、1910年に偶然発見されたキイロショウジョウバエの突然変異の一つです。このように、自然にもさまざまな突 然変異が生じますが、人工的な手段で能率よく突然変異を作り出すいろいろな方法が開発されてきた結果、これまでに、5000種類を超える突然変異が見つかっています。


Q: ショウジョウバエの雄ではなぜ乗換えがおこらないのですか?

A: 減数分裂における乗換えは有性生殖の本質ともいえる現象です。ところが、なぜ多くの生物が有性生殖を行っているのか、いいかえれば、有性生殖にどのような適応的な意味があるかは、現在も未解決の大問題です。というわけで、乗換えを行うことの方がよほど不思議なことであって、行わないことには何の不思議もありません(^^ゞ
えっ、これでは納得できないって? そうでしょうね。これは生物学に残された最大の難問の一つですから。


Q: ショウジョウバエは、ばい菌を持っていて、きたないのでは?

A: ショウジョウバエは野外のイースト(酵母)をおもに利用しており、汚 物などには集りませんから、人間に有害なばい菌などを運ぶことはなく、 安心です。せいぜい、可愛がってやってください。


Q: ショウジョウバエが研究材料に適しているのはなぜですか?

A: たくさんありますが、おもなものをあげると、

(1) 世代が短い
 もっとも広く使われているキイロショウジョウバエの場合、卵から親になるまで10日しかかかりません。しかも、親になった翌日には、もう卵を産み始めます。ですから、1年間に30世代も代を重ねることができます。人間(1世代がおよそ30年)に比べると、1000倍も速いことになります。

(2) 子供の数が多い
 1匹の雌は、1日に数十個の卵を産みます。よい条件だと3週間位は産み続けるので、一生の間に1000匹以上の子供を残すことができます。これは、遺伝学の研究には大変都合のよい性質です。

(3) 飼いやすい
 イーストや糖分などを材料にした簡単なえさで、誰でも容易に飼うことができます。体が小さいので、えさのコストもわずかすみ、飼育のためのスペースが少なくてすむのも利点です。大変丈夫で、病気がないのもありがたい特徴です。

(4) 便利な染色体
 キイロショウジョウバエの染色体は、4対、つまり8本しかなく、生物の中でもとりわけ少ない部類に入ります。これは、研究を行なうのに大変便利な特徴です。 また、幼虫の唾液腺には、唾腺染色体という巨大な染色体がみられますが、この染色体には、バーコードのような特徴のあるしま模様がみられるので、遺伝子の場所を決めたりするのに役立ちます。

(5) 長い歴史がある
 ショウジョウバエが研究材料に使われ始めたのは、今から90年も前のことです。その間に、何千もの突然変異が発見され、また、便利な特徴を持つさまざまな系統が作られ、維持されてきました。また、これらの系統に関するさまざまな情報もよく整理されています。このような歴史的な資産の蓄積があることが、ショウジョウバエが現在も世界中で活躍している最大の理由です。


Q: ショウジョウバエを研究して何の役に立つのですか?

A: ショウジョウバエも人間も、生物としての基本的仕組みはそれほどちが いません。ですから、実験を行なうのにつごうのよいショウジョウバエ を用いて得られたさまざまな知識は、人間の遺伝病やがんなどの病気の原因を明らかにする上でも大変役に立っています。


Q: ショウジョウバエの突然変異系統はどうしたら手に入れられますか?

A: 東京都立大学理学部生物学教室では、いつでも系統の分譲を行なっています。くわしくは、分譲案内のページをご覧下さい。



Q: ショウジョウバエの退治法は?

A: 夏が近くなると、ショウジョウバエが増えて困っているので退治法を知りたいという問い合わせが毎年たくさんあります。そこで、以下に参考になりそうなことがらをあげておきます。

(1) ほんとうにショウジョウバエですか?
 私達の身の回りにいるショウジョウバエは、ふつう体長が2〜3ミリ位のとても小型のハエです。一円玉の上に止まっているのはキイロショウジョウバエですが、いかに小さいかおわかりいただけると思います。体重は1/1,000グラム程度ですから、1,000匹集めて、やっと一円玉1枚の重さです。ショウジョウバエはどこの家にもいますが、あまりにも小さいため、部屋の中で飛び回っていても気がつかないことが多いのです。そのために、ショウジョウバエという名前は知っていても、実物を見たことがあるという人は意外に少ないようです。
 ショウジョウバエが増えて困っているという相談のケースも、くわしく聞いてみるとショウジョウバエ以外の虫であることが少なくありません。イエバエより小さいハエをみると、何でもショウジョウバエだと決めつけられがちですが、これはとんだ濡れ衣で、ショウジョウバエにとっては迷惑な話です。

(2) 発生源を突き止める
 まちがいなくショウジョウバエであるとわかったとしての話ですが、気になるほどたくさん飛んでいるとしたら、どこかに発生源があるとみてまちがいありません。発生源を突き止め、それを取り除くことが第一です。私達の身の回りに多いショウジョウバエの発生源は、いたんだ果物や野菜、放置されたヌカミソの床や漬物、飲み残しのワインなどです。また、ショウジョウバエの種類によっては、流しのコーナーに溜まったお茶がらで増えるものもあります。まず、家の中や物置などに発生源となるものがないかどうか点検し、処分しましょう。また、流しのコーナーは不精をせずに、いつも清潔にしておくように心がけて下さい。ショウジョウバエはほんのわずかのエサでも驚くほどの数が発生しますので、果物のかけらのようなものも見逃せません。
 家の外から入ってくることもあります。このような場合、近所に野菜畑や果樹園があって、くずを大量に捨てているとか、ジュースやワインなど工場などがあって、絞り粕が放置されているといった可能性があります。また、貯木場で大発生する種類もあります。このような発生源がみつかった場合は、責任者に対策をお願いするしかないでしょう。

(3) トラップを使う
 ショウジョウバエは人体には無害ですから、少しくらいいても気にすることはないのですが、中には虫に対して異常に神経質で、どうしても退治しないと気がすまないという人もいます。家庭用の殺虫剤はたいていショウジョウバエにも有効ですから、それを使うのも手ですが、殺虫剤はいやだという方には、トラップの使用をおすすめします。
 トラップに使う容器は、口がある程度広いびんならばなんでもかまいませんが、1リットル程度のペットボトルを利用すると簡単です。まず、ペットボトルの口から数センチメートル下で、びんを二つに切り分けます。切り取った上側を、口の方が下になるようにしてびんの本体に差し込みます。もし、上側が本体の中に落ちてしまうようでしたら、粘着テープなどで落ちないように止めてください。次に、びんの中にワインを適量入れ、中性洗剤または油を1〜2滴加えます。これを、台所など、ハエの多いところにおきます。ワインの匂いに誘われて、ハエはトラップの中に入り、ついにはワインの中でおぼれて死んでしまいます。ペットボトル以外のびんを用いる場合は、口に漏斗をつけて、トラップに入ったハエが外に戻れないようにする必要があります。
 トラップに使うワインは、白でも赤でもかまいませんが、上等なワインほど成績がいいという報告がありますので、あまりけちらない方がいいと思います。もったいないから自分で飲んだ方がいいという人は、きっとショウジョウバエなど気にしない人ですね(^^ゞ

(4) 電撃殺虫器を使う
 ブラックライトで虫を誘引し、高電圧の放電で殺すタイプの電撃殺虫器が市販されていますが、ショウジョウバエにも有効です。ただし、ショウジョウバエは体が小さいので、電圧ができるだけ高く(最低1,500V以上)、格子間隔ができるだけ狭いものを探す必要があります。

ショウジョウバエについての誤解さまざま

 高等学校の生物の教科書にはショウジョウバエの遺伝のことは必ず出てきます。しかし、ごく一部の、また、現在では歴史的ともいえることがらしか扱わないため、いくつかの誤解が生じる原因となっています。ここでは、その代表的なものを紹介することにします。

 ショウジョウバエが遺伝学の発展に大きく貢献してきたことは事実ですが、現在、もっとも活躍している生物学の分野は、実は、発生生物学です。ショウジョウバエの卵は不透明な上、カエルやイモリの卵などに比べて小さいために、胚発生の過程を観察したり、人為的な操作を加えたりするのには不便であり、古典的な発生学の材料としては向いていません。しかし、1980年代になって、発生過程に異常のある突然変異が大量にとられたことから、遺伝学的な手法を利用して発生の過程が研究できるようになりました。この手法は、大きな成果をあげ、ショウジョウバエは発生生物学に革命的ともいえる変革をもたらしました。これらの成果にもとづいて、現在では、発生現象の分子レベルでの理解が急速に進んでいます。


 ショウジョウバエで最初に発見された突然変異の一つである white (白色眼)は伴性遺伝の好例として、ほとんどの教科書に載っています。しかし、これ以外の眼の色の突然変異が紹介されることが少ないためか、「眼の色は伴性遺伝する」と信じている人がいます。
 実は、ショウジョウバエの眼色の突然変異は80種類以上も知られています。それらの遺伝子座は、第4染色体を除くすべての染色体に分布しているのです。


 ショウジョウバエの眼の赤い色素が感光色素として働くという誤解によるものです。感光色素は、ヒトと同様に、ロドプシンであり、白色眼の突然変異でもちゃんと持っていますから、眼がみえないということはありません。
 なお、白色眼のショウジョウバエでは、眼の色素の前駆体を細胞内に取り込むのに必要な輸送タンパクに欠陥があることがわかっています。


 成長速度が最大になる温度が25℃であり、これ以上だと飼育が困難になります。教科書や参考書によっては、25℃で飼育しなければならないかのような記述があり、このために温度調整が不正確なな恒温器を用いたりして失敗する例が少なくありません。実際には、20℃程度がもっとも飼育しやすい温度です。春や秋などの良い季節には、室温に放置しておいてもなんら問題ありません。もっとも飼育がむずかしいのは真夏で、気温が30℃を越えるような条件では、飼育は不可能です。


 ショウジョウバエの染色体でもっとも長い第2染色体と第3染色体は、遺伝地図では、いずれも100cM(センチモーガン)を少し越える長さです。このことから、遺伝地図というのは、本来、100cMを越えないものであると誤解している人がいます。遺伝距離の単位が組変え価(全配偶子中の組変え型配偶子の割合)であることから、なるほどと納得してしまっているようです。
 実際には、組変え価は、50%を越えることはありません。遺伝地図は、短い距離の遺伝子座間の組変え価を積み重ねて作られたものであり、乗り換えの頻度をできるだけ正確に反映するようにしたものです。乗り換えが一つの染色体で2回以上起こっても、別に不思議ではありませんから、100cM以上の長さの染色体があっても当然です。実際、クロショウジョウバエの染色体には、200cMを越えるものがあります。