東京都立大学とショウジョウバエ

歴 史

 東京都立大学におけるショウジョウバエの研究の歴史は、遠く1931年(昭和6年)にまでさかのぼることができます。当時、本学の前身である東京府立高等学校の教授であった故森脇大五郎博士(元都立大学名誉教授)が、ショウジョウバエを用いて遺伝学の研究を開始したのが最初です。アナナスショウジョウバエというそれまで誰も使っていなかった種類のショウジョウバエを用いて、数多くの突然変異を発見、遺伝学的な解析を行ったほか、雄における組変えという、キイロショウジョウバエには見られない特異な現象を発見されました。
 その後、第2次世界大戦という不幸のためにショウジョウバエの研究は中断せざるを得なくなりました。大戦末期には、それまでに蓄積された貴重な突然変異系統は、各地に疎開することによって維持しようと努力したのですが、人間の食料さえままならない時代であったため、終戦時にはすべて絶滅してしまいました。
 戦後間もなく、1947年に森脇教授によるショウジョウバエの研究が再開されましたが、1949年(昭和24年)の都立大学の開学、2005年(平成17年)の都立四大学再編によってできた首都大学東京を経て、その伝統は東京都立大学に引き継がれることになり、今日に至っています。

系統保存事業

 森脇教授らの尽力によって、1962年(昭和37年)、ショウジョウバエの系統保存は、東京都の事業として認められ、以来、事業費が毎年予算化されるようになりました。現在の系統保存は、本学理学部生物学教室所属の主事1名と、進化遺伝学および細胞遺伝学の両研究室所属の教員、学生、アルバイトによって行われています。
 現在維持しているショウジョウバエの系統は、110種、3000系統以上にもなります。これらの系統は、25℃と20℃に調節された2つの恒温飼育室で飼育されています。これらの系統の維持には、直径3cmの管びんが使用されていますが、毎週、7000本近い飼育培地が作られています。
 これらの系統は、日本国内や諸外国の教育・研究機関からの求めに応じて、随時分譲されています。

東京都立大学のショウジョウバエ系統の特色

 本学で維持されているショウジョウバエ系統の特色は、何と言っても、その種数の多いことです。創始者である森脇博士がもっぱらアナナスショウジョウバエを研究対象とされたこと、その後も研究室のメンバーの多くが野外のショウジョウバエを材料として、集団・進化遺伝学の研究を行ってきたことなどのために、しだいに種数が増加しました。
 ことに、1971年以降、故北川 修博士(元本学名誉教授)が中心となって、文部省科学研究費補助金を得て行われた海外学術調査は、東南アジア、環大平洋地域、インド、アフリカ、中国など広範囲にわたり、この調査で採集された種数は膨大な数にのぼります。この結果、本学で維持する種数が著しく増えることになりました。
 キイロショウジョウバエの系統は、アメリカやヨーロッパの系統保存センターで多数維持されていますが、これ以外の種を維持している研究機関はきわめて少ないことから、本学で維持されている系統の重要性がますます高まるものと予想されます。