ショウジョウバエ実験法(入門編)

系統はどこで手に入れるか

 東京都立大学では、ショウジョウバエ系統保存事業を行っており、キイロショウジョウバエの基本的な突然変異系統やその他の種の分譲に応じています。詳しいことは、分譲の案内をごらん下さい。
 この他、ショウジョウバエを使っている国内の多くの研究室が、保存系統のリストを公開しており、Jflyや国立遺伝学研究所の遺伝資源のウエブサイトで見ることができます。また、国内で入手できない系統は、アメリカおよびヨーロッパのストックセンターから入手することもできます。詳しいことは、FlyBase をご覧下さい。

 

野外から採集してくる

 キイロショウジョウバエはじめ多数の種が野外で採集できます。方法として、もっとも多く用いられる「トラップ法」と「スィーピング法」を紹介することにします。

 

ハエの入れ物はなにがいいか

 飼育のための容器として、私達の研究室では、主として直径30mm、高さ120mmの管ビンを使用しています。これより小型の直径20mm程度のガラスやプラスチック製のチューブ、あるいは、大型のや牛乳ビンなどを使用している研究室も少なくありません。
 要は、ハエが逃げないようにフタができ、滅菌ができるものなら何でも使えます。清涼飲料水やお酒の空きビンなどを活用すれば安上がりです。ただし、口があまり小さいものや、底の丸い試験官のようなものは、扱いずらいので、やめたほうがよいでしょう。
 栓は、綿栓やスポンジ栓(発砲ポリウレタン製)を使うのが普通です。紙製の固い栓が細菌培養用などの目的で市販されていますが、隙間ができやすいので、よくありません。また、スポンジ栓は、取り外しが容易で能率がよいといった利点がありますが、ふつうは特注品になること、ダニが侵入しやすいことなどから、小規模な場合にはあまりお勧めできません。

 

何を食べさせるか

 ショウジョウバエの飼料としては、さまざまな種類のものが考案されていますが、完全な人工培地を除けば、主要な栄養源はいずれも酵母(イースト)です。都立大学でも何種類かの餌を用いていますが、主体は、トウモロコシ粉(コーンミール)、乾燥ビール酵母、ぶどう糖(グルコース)を寒天で固めたものです。詳細については、こちらをご覧下さい。
 餌の組成自体は簡単なものですが、原料が一般ではなかなか手に入らない場合が多いと思われますので、小規模な飼育には、市販のインスタント飼料の利用がお勧めです。
 これではコストがかかりすぎるという場合には、比較的入手しやすい原料で作る「イーストの餌」を試してみてください。作り方はこちら

 どのような飼料を用いるにしても、飼育容器に入れる飼料の量は、2〜3cmの厚さになる程度が適量です。量が少なすぎると、ハエを移したりする際に、エサごと落ちてくるとか、乾燥してひび割れができるといったトラブルの原因となります。
 エサに紙を挿すことも一般的に行われています。ハエの止まり場所や蛹のつく場所を広くしてやるのと、湿気の調節が目的です。用いる紙は、ペーパータオルなど、吸湿性があり、腰のしっかりしたものが適しています。ビンのサイズによっても違いますが、数cm角に切った紙を三角形に折り、先端をエサの中に挿入します。

  

滅菌のしかた

 ごく小規模で、短期間の飼育には、特に滅菌操作は必要としませんが、長期間飼育する場合は、どうしてもカビ、バクテリア、天然の酵母の類による汚染が問題となりますので、飼育ビンや綿栓を滅菌する必要があります。
 滅菌には、乾熱滅菌器を用いるのが理想的です。量によっても変わりますが、130℃で3時間程度行います。乾燥した時期には、綿栓に引火することがありますので、注意して下さい。
 オートクレーブも使えますが、ビンはともかく、綿栓が湿ってしまうことが難点です。綿栓だけの滅菌には電子レンジを使う手もあります。

 

どんな環境で飼うか

 

系統はどうやって維持するか

 ショウジョウバエでは、凍結して保存するような技術は、残念ながらまだ確立されていません。このため、系統を維持するためには、毎世代植え継いでいくしかありません。
 系統を維持する目的の場合、まず、1本の飼育ビンに親バエを10〜20匹を入れます。この際、雄と雌が両方入っていることを確認する習慣を付けるようにします。親バエは入れたままにしてかまいません。次の世代のハエが羽化してきたら、この中から、10〜20匹を新しい餌の入った飼育ビンに移し、残りのハエは必要なければ捨てます。不安があるようなら、一つの系統について、ビン2本を用い、できれば時期をずらして植え継ぐようにすればより安全です。
 植え継ぎの間隔は、温度によって違いますが、25℃だと2週間に一度、20℃だと3週間の一度程度を目安とします。
 植え継ぎの際にもっとも注意しなければならないことは、他の系統のハエが混じらないように気を付けることです。部屋の中にたくさんのハエが飛んでいるような状態では、ハエの移し変え作業の間に飛び込む危険性があります。また、飼をビンに分注してから栓をするまでの間に、ハエが入り込んでいることもあります。

 

さまざまなトラブル

 ショウジョウバエには、これまで病気らしい病気は報告されておらず、実験動物の中でももっとも飼育しやすいものの一つです。しかし、まったく問題がないというわけにはいきません。主な問題は以下のようなものです。

 

どんな道具がいるか

 実験や研究の目的によって必要な器具や道具は変わりますが、どうしても必要な基本的なものとして、以下のようなものが必要です。

 

キイロショウジョウバエの発育の速さ

 発育の速さは飼育する温度によって大きく変わります。25℃で飼育した場合の標準は以下のとおりです。

      産 卵       0時間
     1令幼虫     24
     2令幼虫     48
     3令幼虫     72
     蛹 化     120
     羽 化     220

 つまり、産卵から9日と少しで成虫になります。例えば、ある月の1日に親バエを新しい餌に移すと、その月の9日の午後には次世代の羽化がはじまります。したがって、25℃で飼育する場合は、10日を基準に実験計画を立てるようにします。また、20℃では、およそ2週間を要しますので、授業の場合のように週単位の計画を立てるのに便利です。

 

基本的なテクニック