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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:国際シンポジウム

タイトル: 齧歯類の生態に関する日米研究室間合同セミナー
実 施 者: 坂本信介、土屋香織、伊藤兼敏、小林まや、武智玲奈、松田尚子
実施場所: The University of Arizona
実 施 日: 2008年 2月 20日
対  象: 実施者およびWildlife and Fisheries Science, The University of Arizona所属の教員および院生

<概要/目的>
The University of ArizonaにてMammal Research Symposiumを開催し、本学とThe University of Arizonaの大学院生による研究発表を行った。また、リサーチサイト訪問や自然観察を行なった。1.英語で口頭発表を行うことにより、英語での研究発表および討論能力を向上させること、2.院生同士の交流や研究室の訪問を通して、日本とは異なる研究環境や研究の進め方を知ること、3.リサーチサイトの見学を通じて、砂漠などの日本とはかなり違う景観において、どのような研究が行われているかを学ぶこと、の3つを企画の主な目的とした。来年度、The University of Arizonaの大学院生や国内の研究者を招聘し、日本でも哺乳類研究のシンポジウムを行う予定であり、その準備も行った。


<方法/企画としての特徴>
本企画の特徴は、日米の大学院生が交換留学のような形で、双方の大学でのシンポジウムや調査見学を行うことにより、互いの研究環境や研究の進め方などについて学び、国際舞台で発表や議論などを行う力を養うという点にある。発表を行うとともに、長期的かつ継続的に連絡を取り合い、情報を交換し合うことで、英語でのコミュニケーション能力および発表能力が鍛えられ、国際学会等での発表や討論に積極的に参加できるようになると考えられる。また、双方の院生にとって、異なる研究材料や研究手法、異なる国の研究スタイルを知ることで、自身の研究を発展させるヒントを得ることが期待できる。
 

<活動内容/具体的成果>
滞在に先立ち、Dr. John L. Koprowskiとメールにて詳細を相談した。Dr. Koprowskiに日本の複数名の院生がThe University of Arizonaの研究室を訪問し、研究発表を行ないたい旨を伝えたところ快諾してくださり、先方の院生の研究発表も含めてMammal Research symposiumを開催することになった。出発に先立ち、滞在中の大まかなスケジュールを決めたり、各自の研究発表の要旨を日米ともに準備して要旨集にまとめるなどの作業を行なった。訪問の際にはセミナー以外にも研究室のリサーチサイトを訪問し、調査の様子を実地に見せてもらうような計画にした。
アリゾナ大学の周辺地域は、乾燥した草原あるいは砂漠環境であり、冬場には川に水がなくなってしまう厳しい環境である。しかし、ツーソン市郊外には草地や砂漠に囲まれた山地(Sky Islands)が所々に点在しており、山地の頂上付近では雨や雪が降るため、これらの山地では冬場でも川に水が流れていて、さまざまな哺乳類が他の山地とは隔離された状態で生息している。滞在先の研究室の大学院生はこのような孤立した山地ごとに哺乳類(主にリス類)の個体群を対象として、研究を行なっている。
(写真は、The University of Arizonaのキャンパスの様子)


2008 年2月20日(水)〜3月1日(土)(一部のメンバーは2月27日(木)まで滞在)にThe University of ArizonaのDr. John L. Koprowski (Wildlife and Fisheries Science, The University of Arizona) の研究室に、実施者6名のうち5名が滞在した(1名は発表内容の作成に携わった)。主な活動内容は以下の通りである。

2/20 (水) アリゾナ州ツーソン市に到着した。
2/21 (木) 22日開催のシンポジウムのための相談や準備、滞在中のスケジュールの確認を行なった。
2/22 (金)  The University of Arizona Student UnionにてMammal Research symposiumを開催した。シンポジウムの発表プログラムは以下の通りである。

Mammal Research Symposium
 22 February 2008
 Sabino Room, University of Arizona, Tucson, Arizona, USA

9:00 am ….Welcome by John Koprowski
9:10 am…. Kaori Tsuchiya
INTRODUCTION OF TMU, ANIMAL ECOLOGY LAB AND NATURE OF JAPAN
9.30 am…Kanetoshi Ito
INTERACTIONS VIA SCENT BETWEEN AND WITHIN FAMILIES OF MONGOLIAN GERBILS MERIONES UNGUICULATUS
9:50 am…Maya Kobayashi
DISPERSAL PATTERNS AND GENETIC STRUCTURES OF THE LARGE JAPANESE WOOD MOUSE APODEMUS SPECIOSUS
10:10 am…Shinsuke Sakamoto
TERRITORIAL DEFENSE IN THE FEMALE WOOD MOUSE APODEMUS SPECIOSUS: WHEN, WHERE AND AGAINST WHOM?
10:30 am…Reina Takechi
WALNUT-FEEDING BEHAVIOR OF THE WOOD MICE, APODEMUS SPECIOSUS: EFFECTS OF LEARNING AND GENETICS
10:50 am…Seafha Blount
ASSESSMENT OF FIRE IMPACTS ON OCCUPANCY OF MIDDENS BY ENDANGERED MOUNT GRAHAM RED SQUIRRELS
11:10…R. Nathan Gwinn
ABERT'S SQUIRREL (SCIURUS ABERTI) DENSITIES IN BURNED AND UNBURNED TRACTS OF MIXED CONIFER FOREST IN THE PINALENO MOUNTAINS

LUNCH IN THE REDINGTON ROOM

12:10…Debbie C. Buecher
RIPARIAN AREAS AS HOTSPOTS OF BAT DIVERSITY IN ARID ENVIRONMENTS
12:30…Nichole L. Cudworth
ARIZONA GRAY SQUIRREL (SCIURUS ARIZONENSIS) HOME RANGE SIZE AND RIPARIAN DENSITY ESTIMATES
12:50…Sandra L. Doumas
MEXICAN FOX SQUIRREL USE OF FIRE-IMPACTED FOREST
13:10…Andrea R. Litt
CONSEQUENCES OF RESTORING FIRE TO ECOSYSTEMS INVADED BY NONNATIVE PLANTS
13:30…Vicki Greer
REPRODUCTIVE SUCCESS OF MT. GRAHAM RED SQUIRRELS: DEMOGRAPHIC AND RESOURCE INFLUENCES

BREAK

14:00…Rebecca Minor
COMPETITION BETWEEN ENDANGERED MT. GRAHAM RED SQUIRRELS AND INTRODUCED ABERT’S SQUIRRELS
14:20…Lisa Haynes
WILD CAT RESEARCH AND CONSERVATION AT UNIVERSITY OF ARIZONA
14:40…Kerry L. Nicholson
CURRENT STATUS OF MOUNTAIN LIONS AND URBAN ISSUES
15:00…Geoffrey H. Palmer
ASSESSMENT OF AN INTRODUCED POPULATION OF MEXICAN RED-BELLIED SQUIRRELS IN BISCAYNE NATIONAL PARK, FLORIDA, USA.
15:20…Nicolas Ramos-Lara
ECOLOGY OF THE MEARNS’S SQUIRREL (TAMIASCIURUS MEARNSI) IN THE SIERRA DE SAN PEDRO MARTIR, MEXICO

写真は、シンポジウムの様子を撮影したものである。シンポジウムでは首都大学の紹介および日本の自然について発表する予定だった土屋が風邪をひいて発表できなかったため、急きょ小林が代理で発表した。たどたどしい発表にもかかわらずスライドは好評で、日本の動物相の厚さを感じてもらえたと思う。首都大学組の発表の質疑応答では、先生だけでなく学生からも発表に対しての質問や評価をもらえた。また、訪問先の学生の発表に対して、こちらも積極的に質問やアドバイスをした。シンポジウム後は大学近くのバーでご飯を食べつつ、発表内容や動物の保全を行なう際の問題、野外調査の話などで盛り上がった。
   

2/23(土)
Coronado National Forest内のSabino Canyonに行き、山地の下部の砂漠や草原環境の自然を観察した。Sabino Canyonは山地を流れる川の浸食作用により形成された渓谷である。夜には、同渓谷を調査地としている研究者に同行し、コウモリの捕獲調査の様子を見学した。この調査は、川の上に霞網を仕掛け、飛来したコウモリを捕獲し、性別や体重などを調べるものであった。また、バットディテクターを用いて、コウモリがエコロケーションで出す周波数を調べ、どのような種のコウモリが活動しているのか調べる方法を学んだ。調査の合間には、研究者が保護している4種のコウモリを間近に見ながら、それぞれの種の特性や生態について解説を受けた。

2/24(日)
Chiricahua Mountainsにあるリサーチサイトに行き、ラジオテレメトリーによるリス(Mexican fox squirrel)の行動圏の調査に同行した。このサイトでは、12匹のリスに電波発信器がすでに装着されており、調査中はアンテナを使いながら目視でもリスを探し、発見した場合、発見した位置や周囲に巣があるかどうかをチェックしていた。また、リスの捕獲方法や発信機の装着の仕方を解説してもらった。

2/25(月)
砂漠環境とはどのようなものなのか知るために、Arizona-Sonora Desert Museumに行った。ここでは、以前、訪問先の大学院生が調査の際に母親のリスが死亡していたのを発見し、その巣の子供を保護してArizona-Sonora Desert Museumに預けていたため、保護されたリスの様子を間近に観察することができた。野生のリスを間近で観察できることはほとんどないため、とても貴重な経験となった。また、Arizona-Sonora Desert Museumの哺乳類展示の責任者が展示の裏側を案内してくれて、斬新な行動展示やArizona-Sonora Desert Museumの理念について話してくれた。園内では植物に加え、自然条件下ではなかなか見ることができないピューマやハナグマ、クビワペッカリーなどの哺乳類のほか、ハチドリなどの鳥類、ドクトカゲなどの爬虫類、昆虫類、魚類が展示されていて、砂漠環境に生息する動植物を網羅的に知ることができた。

2/26(火)−2/27(水)(滞在メンバー5人のうち2人が帰国)
アリゾナ州の北部に位置するGrand CanyonおよびOak Creek Canyonを訪問した。アリゾナ州南部は大半が草原ないしは砂漠環境であるが、北部の高度の高い地域では主に針葉樹からなる森林が形成されている。アリゾナ州の多様な自然環境を知り、さまざまな動物を観察するために2日間かけてアリゾナ州北部の国立公園を訪問した。南部の山地は火山活動の結果生じたもので、いわゆる山の形をしているのに対し、Grand Canyonなどの北部の山は侵食により形成されているためテーブル状の形をしている。加えて、南部は乾燥していてサボテンなどが多く見られるのに対し、北部は水が豊富で針葉樹や樫の仲間が多く見られた。このように、同じ州の中でも非常に多様な環境があることがわかった。この訪問中には多数の鳥類、数種の猛禽類、ミュールジカ、コヨーテ、リスなどの動物が観察できた。

2/28(木)
The University of Arizona の授業「Small Mammal Conservation and Management」に出席した。この授業は、1人の学生がトピックとなる論文を紹介しながら、その論文について全員で議論するスタイルである。今回の論文は、風力発電施設とコウモリ類の死亡率の関係をレビューしたものであった。日本では、風力発電施設が鳥類に影響を与える可能性については議論されているが、コウモリ類への影響を検討している例はほとんど聞いたことがなく、とても興味深かった。論文内容の妥当性について、先生が主導しながら、院生同士が批判的に議論するという授業のスタイルは、討論に慣れる、という意味でとても勉強になると感じた。今回の参加者のうち土屋が風邪のためシンポジウムに参加できなかったため、この授業の後に、土屋の研究発表として「Function of male sperm-removal organs in damselflies」、また、こちらの研究室の研究紹介として「Habitat distribution of three salamanders in western part of Tokyo」というタイトルで研究発表を行なった。滞在先の研究室は、主には哺乳類の生態を研究しているため、どちらの発表も異分野であったが、カワトンボ類の行動やサンショウオの生息場所について議論することができた。後者の発表の中で、首都大キャンパス内の緑地に生息する両生類や哺乳類の紹介を行なったが、都心近くに多様な動物が生息する環境が残されていることに、とても驚いていた。夕方には、市内にあるTumamoc Hillに行った。この丘には大学の研究施設があり、およそ100年前から、さまざまな気候や植生、動物相などの学術調査が継続的に行なわれている。ここでは研究の歴史や学術調査の対象として保護されている地域の自然を知ることができた。  

2/29 (水)
帰国。

写真は上段左から、Sabino Canyon、White-nosed coati, Mexican fox squirrel, 下段左から、リス類の調査の様子、Abert's squirrel。

 



<感想/課題など>
英語でのやり取りおよび発表を通して、英語と日本語での表現方法の違いを痛感した。しかし、この経験が自身の研究発表および討論能力を向上していることを感じている。合同シンポジウムで異なる研究材料や研究手法、異なる研究スタイルに触れることができた。また、日本とは大きく異なる自然環境での調査を体験することがきたのがこの上ない経験となった(伊藤)。

 本企画では合同シンポジウム以外にも、リサーチサイトや研究手法の見学、北アメリカ南部の動植物の観察、大学院の授業への参加を行なった。シンポジウムでは、初めて英語の口頭発表を行なったが、活発に質疑応答を行なえたこと、研究に対してよい評価をいただいたことが良い経験となった。また、アリゾナ大学の生徒の研究内容に対して、自身の調査経験を生かしたアドバイスをすることができ、その生徒の研究をサポートすることができた。リサーチサイトや研究手法の見学では、野外調査の際に使用する道具類を実際に見せてもらい、調査の特徴や問題点について議論することができた。動植物の観察では、日本とは全く異なる動植物を知ることができ、各動植物の生態や保全状況についても詳細な解説をしていただけた。加えて、大学院の授業に飛び入りで参加させてもらい、アメリカの大学でどのような授業が行なわれているのかを体験することができた(小林)。

 自身にとって初めての英語による口頭発表を行う準備として、早い段階から生物学英語コミュニケーションや生物学英語:聞く・話す(科学英語:聞く・話す)の授業に積極的に参加した。英語での発表スキルを学び、講師や学生と英語で討論し、ミニプレゼンテーションを繰り返す中で、確実に英語によるプレゼンテーション能力、コミュニケーション能力が伸びていくことを実感した。都合により渡米は途中辞退することとなってしまったが、本企画に参加し、明確な目的を持って授業に参加できたことは、自身の能力を伸ばす上で非常に貴重な経験となった。この経験を生かして、来年度はぜひ英語によるプレゼンテーションを行いたいと思う(松田)。

 合同シンポジウムでは、初めて英語での口頭発表を行った。プレゼンの準備から発表を通して、英語で研究発表する力を強化することができた。また、先方の発表を聴いたことで、アメリカにおける野生動物の保全に関する研究の現状を知ることができただけでなく、英語でのプレゼンの仕方についても多く学べた。しかし、英会話力の不足から、自分から積極的に議論に参加することができなかった。英会話力の向上が今後の課題である。院生同士のコミュニケーションを通して、少しずつ英語での会話に慣れることができたので、今後も継続して英語で話す機会を多く作っていきたい。また、リサーチサイトの訪問で、アリゾナの自然に触れ、コウモリやリス類の調査を間近で見ることができた。実際に外国の自然環境や調査手法を知れたことで、文献を読んだ際のイメージがつきやすくなり、この経験が自身の研究の発展に繋がるものと感じている(武智)。

 アリゾナ滞在中に、風邪をひいてしまったため、合同シンポジウムに参加できなかったことがとても残念であった。後日、自身の研究発表の時間を設けてもらえたので、英語での口頭発表をすることはできた。自身の研究発表では、活発に議論ができ、よい経験となった。とても充実したリサーチサイト見学のスケジュールとなり、アリゾナのさまざまな自然環境および動物を観察することができた。また、哺乳類の調査に同行することができ、とても勉強になった。学生たちは自分の専門の動物だけでなくサイトの植物に関しても詳しく、自分自身も動植物の知識を充実させていきたいと感じた(土屋)。

シンポジウムでは、専門分野なので比較的容易に内容は理解できたが、質問を正確に伝えるのに時間がかかってしまい、スムーズな議論には至らなかった。自身の発表は、内容についてはきちんと伝えることができた。質問を多数受け、非常に良い評価が得られた。
本企画の最大の特色は、合同シンポジウムを行った後に、リサーチサイトや景観の見学を行ったことである。互いの研究を知った上で、連日行動を共にしたことで、様々な話題について活発な議論をすることができた。特に、Dr. Koprowskiとはたくさん議論することができた。彼らの研究室がどのようなビジョンを持って今後どのような研究を展開していくのかを聞いたり、哺乳類の行動生態学において今後どのような研究が面白く重要なものになるのかについて議論したり、また、「こういう研究はどう思うか?」、「こういう現象についてはどう思うか?」など自身のアイデアを多数話し、意見をもらうことができた。おそらく、研究室に滞在するだけでは、このような議論をする機会は極めて限られていただろう。以前に国際哺乳類学会に参加した際にも感じたが、長時間じっくりと話をすることで、彼らの考え方や興味を知ることができる。英語での発表やその準備過程に加え、一対一でじっくり話したことが特別な糧になるだろうと感じた。日本では哺乳類の行動生態学研究者は少なく、面と向かって議論する機会は限られている。自身の研究に建設的なアドバイスが得られ、研究へのモチベーションにおいて大きな刺激となった(坂本)。
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