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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:国際シンポジウム

タイトル: 小型哺乳類の行動と保全生態学に関する国際シンポジウム、国際セミナー、および日米大学院生交流企画
実 施 者: 松田尚子・武智玲奈・坂本信介・白井剛・土屋香織・前田尚子・白井衣里香・宮澤絵里
実施場所: 首都大学東京
実 施 日: 2008年 10月 12日
対  象: 生命科学専攻の教員及び院生、アリゾナ大学のコプロウスキー博士の研究室、および哺乳類の研究者

<概要/目的>
 アリゾナ大学のJohn L. Koprowskiの研究室では、野生動物の生態、保全に関して、主にリス類を材料として研究している。2008年2月には、アリゾナ大学の彼の研究室を、われわれ大学院生5名が訪問し、齧歯類の生態に関する日米研究室間合同セミナーを開催した。今回は、John L. Koprowskiと彼の研究室に所属している5名の大学院生(E. Munroe, Sandra L. Doumas, Seafha Blount, Nichole L. Cudworth, Rebecca Minor)を首都大学東京に招き、動物生態学研究室の大学院生が主体となって、小型哺乳類の行動と保全生態学に関する国際シンポジウムと国際セミナーを開催した。これらのシンポジウムとセミナーは一般公開で行い、この分野に関する最新の研究内容を発表し、参加者と共に哺乳類の行動と生態に関する議論を深めることを目的とした。また、大学院生の英語でのコミュニケーション能力を高め、アリゾナと日本の自然や文化の相互理解を深めるために、他の研究室に所属する生命科学専攻の大学院生も積極的に関わって国際交流を行った。

<アリゾナ大学のHPでも今回の企画について紹介されています>
http://snr.arizona.edu/project/tokyo-tucson

<企画としての特徴>
 シンポジウムとセミナーを一般公開にしたことで、国内の専門家に参加していただき、小型哺乳類(とくに齧歯類)の生態に関する議論を深めることができた。運営は大学院生が中心となって行ったことで、シンポジウムの企画・運営のためのノウハウを身に付けることができた。また、日米の自然と文化の国際交流企画など5つの院生企画の行事を開催し、他の研究室から多数の学生が参加し、John L. Koprowskiおよび5名の院生と交流することができた。




<実施内容/成果>
10月12日(日)
 成田空港まで、アリゾナ大学の哺乳類研究者であるJohn L. Koprowskiと彼の研究室の5名の女性大学院生であるKaren E. Munroe, Sandra L. Doumas, Seafha Blount, Nichole L. Cudworth, Rebecca Minorを出迎え、南大沢に到着後ピザとパスタの店で歓迎夕食会を開く。大学セミナーハウスに全期間を通して宿泊。

10月13日(月、祝日)
 アリゾナ大学のJohn L. KoprowskiとKaren E. Munroeの他に東京農業大学の安藤元一氏と森林総合研究所の田村典子氏にも講演を依頼し、国際シンポジウム「小哺乳類の社会行動と生活史」(一般公開)を国際交流会館大会議室にて開催した。学内だけでなく、他大学の関連研究室にもポスターを掲示し、JECONETやリムネットなどの研究者向けのメーリングサイトにも案内を出し、当日は40名を超える参加があった。英語での質疑応答も活発であった。プログラムは以下の通りである。

Arizona/Tokyo International Symposium - Social behavior and life history of small mammals -
13:00…Tadashi Suzuki (Tokyo Metropolitan University) Opening remarks.
13:05…Motokazu Ando (Tokyo University of Agriculture) Habitat preferences of the Japanese giant flying squirrel (Petaurista leucogenys) and the Japanese small flying squirrel (Pteromys momonga).
13:50…Noriko Tamura (Forestry and Forest Products Research Institute) Vocalization and sociality of Formosan and Malaysian tree squirrels.
14:35…Break.
14:50…Karen E. Munroe (University of Arizona) Life history and behavior consequences of ground squirrel sociality: A test of the social complexity model in round-tailed ground squirrels (Spermophilus tereticaudus).
15:35…John L. Koprowski (University of Arizona) Social and mating systems in North American tree squirrels: conflict between the sexes?
17:00…Banquet.

10月14日(火)
 午前中に「キャンパス内の自然観察会と飼育棟の案内」という院生企画を実施し、総勢15人が参加した。南大沢キャンパス内の松木日向緑地に生息する動植物を観察しながら、生き物に関する解説や、野生生物の調査方法(カメラトラップなど)を紹介した。また、8号館北側の飼育棟に案内し、ナマコ類やアメフラシ類などの海の生物を紹介した。
 午後には、アリゾナ大学と動物生態学研究室の合同国際セミナー「小哺乳類の社会行動とそれに基づく保全生態学」(一般公開)を国際交流会館中会議室において開催した。昨日の国際シンポジウムに引き続き30名を超える参加者があり、英語での活発な質疑応答を行った。プログラムは以下の通りである。

Arizona/Tokyo Joint Seminar on Small Mammal Ecology - Social behavior and behavior-based conservation biology -
13:00…Shinsuke Sakamoto (Tokyo Metropolitan University) Complicated making decisions in territorial defense: dear enemy phenomenon in female large Japanese wood mice.
13:30…Nichole L. Cudworth (University of Arizona) Mating strategy influences space use in Arizona gray squirrels.
14:00…Reina Takechi (Tokyo Metropolitan University) Self-learning and cultural transmission of walnut-feeding skills in Apodemus speciosus.
14:30…Break.
14:45…Naoko Matsuda (Tokyo Metropolitan University) Predation risk and feeding behavior in wood mice Apodemus speciosus.
15:15…Rebecca Minor (University of Arizona) Resource competition between endangered and introduced small mammal populations: a case study from a montane island system.
15:45…Sandy Doumas (University of Arizona) The return of historical fire: space and habitat use of Mexican fox squirrels.
16:30…Seafha Blount (University of Arizona) Long-term response of small mammals to fire: endangered Mt. Graham red squirrels in burned forest.
17:00…John L. Koprowski (University of Arizona) Challenges for the conservation of montane small mammals: implications of disturbance and climate change.
18:00…Banquet.


10月15日(水)
「高尾山での自然観察会」という院生企画を実施した。植物生態学研究室、環境微生物学研究室、植物ホルモン機構研究室の大学院生も参加し、総勢17名で高尾山を訪問した。登りは高尾山特有の温帯林の樹木が茂るコースを通り、植物や鳥、野生動物のフィールドサインなどを観察した。下りは薬王院を経由して、さる園でニホンザルを観察した。
 夕方からは高尾駅に近い多摩森林科学園において、ムササビの観察会を行った。こちらには10名が参加し、田村典子氏と安藤元一氏が案内のもと、参加者全員がムササビの姿を観察することができた。

10月16日(木)
 「井の頭自然文化園の見学会」という院生企画を実施した。総勢16人で、日本固有の動物を多数展示している井の頭自然文化園を訪問した。ニホンリスの飼育施設や展示施設については、アリゾナで絶滅が危惧されているリス類の繁殖にも適用できるのではないかと熱心に見いっていた。
 夕方から「日本とアリゾナの自然に関する座談会」という院生企画を実施した。イニシアティブ交流スペースにおいて、日本やアリゾナの自然の特徴や、そこで行われている生態学の研究などについて、分野外の院生にもわかりやすいように英語で発表を行い、20名ほどで議論を行った。プログラムは以下の通り。

16:00-16:05 はじめに
16:05-16:35 アリゾナの自然について(アリゾナ大学の院生)
16:35-17:00 東京の自然とアオサギの生態について(白井剛、動物生態)
17:00-17:30 小笠原諸島の特徴と研究紹介(常木静河・植物系統)
17:30-17:45 小笠原諸島の外来種問題について(石神唯・植物生態)
17:45-18:15 南硫黄島ビデオ上映 (中村朗子・植物系統)
18:15-20:00 食事会




10月17日(金)
 田村典子氏らの案内で、富士山のニホンリスの生息地を訪問した。低地のアカマツ林から五合目のゴヨウマツ林まで、いろいろな針葉樹の球果の食痕を観察し、アリゾナにおけるリス類の球果の食べ方や餌環境の違いについて議論した。

10月18日(土)
 「鎌倉でのタイワンリス観察会」という院生企画を実施し、総勢13人が参加した。外来種であるタイワンリスを実際に観察しながら、外来種問題と固有種の保全について議論した。まず佐助稲荷へ行き、タイワンリスの巣を見ることができた。次に銭洗い弁天に行き、タイワンリスの姿を確認することができた。タイワンリスは捕食者の種類(ヘビ類、哺乳類、猛禽類)に応じて警戒音声を使い分けることが知られている。ここでは哺乳類の捕食者に対する警戒音声を聞くことができた。最後に訪れた大仏(高徳寺)では、10頭を超えるタイワンリスを観察することができた。タイワンリスの分布拡大の起点となった江ノ島を眺め、帰路に着いた。


10月19日(日)
 東京の文化と歴史を紹介するために浅草寺を訪問した。昔ながらの商店と浅草の賑わいに大いに感激していたようである。

10月20日(月)
 成田空港に見送りに行った。午後4時過ぎの飛行機で無事に出国した。

<感想/課題>
○初めて英語での発表を聞いた。聞きやすく話していただけたのか、内容はある程度は把握できたと思う(スライドのおかげもあるが)。アメリカと日本の研究規模の違いが思っているよりも大きかったと感じた。国の大きさもあるのだろうが、研究員の多さに驚いた。課題としては、英語を話すことが得意ではないので、大勢の人たちがいる中で挙手をし、発言をするということができなかったことである。1対1の場合は、雑談にせよ、疑問にせよ、拙い片言の英語で会話?ができたと思う。あまり学術的なことを話したというわけではないが、雑談は交わせたと思う。十分に楽しかった。(白井衣)
○英語での講演を聴くのは初めてのことであり、どれくらい聞き取れるか心配であったが、国際シンポジウムや国際セミナーでは、図や写真を豊富に使ったわかりやすいスライドと説明のおかげで、だいたいの内容は理解できたと思う。国際セミナーでのアリゾナ大学の院生の発表では、生態学・保全に関する点だけでなく、研究テーマや実験方法の設定についても参考になることが多かった。また、アリゾナ大学の人達と日本とアメリカの自然や文化、野生生物の保全などについて、興味深い話を聞くことができた。(宮澤)
〇13日の国際シンポジウムでは,アリゾナ大学の先生や院生らがリスの研究について,国内の研究者らはムササビや小型の哺乳類の研究について報告された.英語での発表を聞き,わからないことは英語で質問した.単純で素朴な質問にも発表者が気軽に答えてくれたことが,とても嬉しかった.このことをきっかけに発表者との距離が縮まり,後の観察会や座談会では英語で会話することが苦でなくなった.(前田)
○国際シンポジウムや国際セミナーでは、アリゾナ大学の院生らの発表は図や写真が多く、具体的でわかりやすかった。自分自身が今後発表をする時に参考にすべき点が多く含まれていた。コプロウスキー博士らが来日した当初、うまく英会話が行えなかったが、とにかく喋ろうと努力をすることで少しずつ意思の疎通がはかれるようになるのを実感した。高尾山や鎌倉を案内しながら、多くの時間を共有することができ、9日間という短い期間ではあったが、英語によるコミュニケーション能力を飛躍的に高めることができたのだろう。また、国際セミナーで口頭発表を行ない、国内の齧歯類研究者の方とも交流することができた。今後の私の研究上での助言や情報を多く得ることができた。(松田)
○今年の2月にアリゾナ大学を訪問し、Koprowski博士と彼の研究室のメンバーと共に、合同セミナーとリサーチサイトの見学を行った。その際、英語での口頭発表の方法や、アリゾナの砂漠地帯における景観や野生動物の調査方法など、多くのことを学ぶことができた。今回は、Koprowski博士と彼の研究室の院生を招き、日本の自然と日本における齧歯類の研究内容を互いに紹介し合えた。滞在期間中は、積極的にアリゾナ大学の人達と交流し、英語でのコミュニケーション能力を向上させることができたと思う。一人一人とじっくり会話をすることができ、アメリカと日本の文化や大学院生活、研究の話などを通して、相互理解を深めることができたと思う。国際シンポジウムでは、国内外の著名な研究者の発表と討論に触れ、小型哺乳類の研究の面白さや難しさを知ることができ、とても刺激的であった。国際セミナーでは、自身も演者となり、英語で研究発表と質疑応答を行った。今回は、前回のアリゾナ大学でのセミナー発表時に比べ、質問に対して落ち着いて答えることができた。また、積極的に討論に参加することもできたと思う。今後、更に継続して英語に触れる機会をつくり、英語での会話力をさらに向上させていきたい。企画全体を通して運営力を養う良い経験ができたと感じている。(武智)
○国際シンポジウムと国際セミナーでは、アリゾナ大学の人たちの研究は、日本よりもフィールドが広く、羨ましいと思った。また、森林火災が起きた場所での哺乳類への影響について初めて聞き、国内でのムササビやタイワンリスの研究の話など、普段はあまり聞かない話を聞く事ができ興味深かった。高尾山での自然観察会では、野草のホトトギスや、ノギクなどの秋の花や、ガマズミやミズナラの実、野鳥の姿や鳴き声を観察できた。井の頭自然文化園では、ニホンリスのケージで、クルミを食べるリスの観察ができた。野鳥のケージでは日本の野鳥が飼育されていて、普段は双眼鏡越しにしか観察できない野鳥を、園内では間近に観察できた。いずれもアリゾナ大学の人たちには、英語でなるべく詳しく話すように努めた。普段私が関わっているエコツアーで、日本語で案内するようにはいかなかったが、事前に図鑑で英名を調べるなどしたため、ある程度適切な案内ができたと思う。座談会では東京の自然について紹介し、アリゾナ大学の人たちにどのような切り口で話せば良いか事前に考えた。東京では都会の中にも比較的自然が残されていて、これからも残していきたい。(白井剛)
○今回の企画は前年に実施したアリゾナ大学への研究交流訪問との連動企画として行った。国際シンポジウムでは、前半の司会進行を務め、専門外の大学院生や一般の来聴者に対して発表内容の解説も行った。国際セミナーでは口頭発表を行った。また、前回渡米した際に出た意見を、アリゾナ大学の院生が参考にして研究を進めてくれていた事など嬉しい事もあった。関連メーリングリストや近隣大学への広報活動が実り、国際シンポジウムや国際セミナーともに多数の来聴者を迎え、活発な質疑応答を行うことができた(遠くは鳥取県からの来聴もあった)。自身に関しては、半年前に比べ、英語でのスライド作成および発表技術が大きく向上しているとコプロウスキー博士やアリゾナ大学の院生に評価して頂いた。英語を聴く事に関しては、発表内容のほとんどを理解する事が出来、自身でも向上が実感できた。しかし、短時間のうちに多くの情報をうまく伝える事については、もっと工夫が必要であるし、何より日々の訓練が必要であると感じた。関連企画では、日本の哺乳類、特にリス科動物の観察を行った。タイワンリスやムササビの行動観察をしながら、コプロウスキー博士やカレンさん(自身と同じく地上性齧歯類の社会行動を対象としている)とは、特に活発な議論を行う事ができ、これからの研究の進め方について大きなヒントを得る事ができた。(坂本)



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