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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 八王子いちょう祭りにおける外来生物に関する展示|植物系統分類学研究室(企画経営演習)
実 施 者: 棚橋優花、米岡克啓、片岡利文
実施場所: 八王子陵南公園(いちょう祭り会場)
実 施 日: 2021年 11月 20日
対  象: 八王子いちょう祭りの来場者(約1200名)

<概要/目的>
牧野標本館は、日本の植物分類学の父とも呼ばれる牧野富太郎博士が採集した標本を中心に、約50万点の標本を収蔵しており国内でも屈指の収蔵点数を誇る。博士の没後に遺族より寄贈された40万点の未整理標本を整理するために、東京都立大学に設立された。1991年には、八王子市にキャンパスが移転し、その後には牧野標本館別館も建設された。また、東京都立大学は小笠原諸島や伊豆諸島の植物相に関する研究が盛んであるために、東京都の島嶼部から採集した標本も多く収蔵されていることに加えて、これらの標本を活用した研究が盛んにおこなわれている。牧野標本館の運営を行っている植物系統分類学研究室は、被子植物やシダ植物を対象とした系統分類学、植物系統地理、進化生物学的研究を、標本の観察や顕微鏡を用いての形態の比較、DNA塩基配列に基づいた分子系統解析、野外における昆虫と植物の相互関係の観察等の技術を駆使しながら行っている。

【pic. 1 東京都立大学南大沢キャンパス内に位置する牧野標本館】

 
ところが、日本屈指の収蔵点数を誇る大規模な博物館施設で学術的にも重要な資料を収蔵しているのにもかかわらず、牧野標本館の存在は認知していても何を行っているのかは地域の人々に全く知られていない。
そこで、八王子市内で開催される催事を活用して、1)牧野標本館の紹介 2)標本作成体験 3)牧野標本館の紹介 4)植物系統分類学研究室で行われている研究の紹介 等の自然科学に関する普及啓発を行うことで、来場者への広報となることを目的とした。

<方法/企画としての特徴>
(1)ポスター発表
ポスター形式による植物の系統分類に関連する研究成果の紹介を行った。ポスターはバイオカンファレンス2021で使用された企画者自身が取り組んでいる修士課程の研究をまとめたものを基に、一般のお客様が理解しやすい形で再編集したものを使用した。設営されたテントの壁一面に,ポスターを掲示し,訪れた参加者の要望に応じて企画者が解説員となって参加者のレベル,要望に合わせた説明を行った。本年度は新型コロナウイルス感染症の感染症拡大防止措置の一環で、学園祭でのオープンラボが開催できなかったため一般の方に対する研究紹介,研究室紹介を行うための貴重な発表の場となった。

(2)生体標本の展示
八王子いちょう祭の展示ブースの一角でシダ植物の生体展示を行った。植物は東京都立大学,南大沢キャンパス内で採集された「私たちの身の回りに生育するシダ植物」をテーマに採集し,参加者が実際に手に取って観察できるように机の上に並べて展示した。生体標本展示では主に小学生以下の子供,中学生以上の大人という2つの区分に分けて企画者が解説を行った。まず小学生以下の子供に対しては生体標本と事前に作成したオリジナル図鑑を用いて「シダ植物の絵合わせクイズ」を実施した。クイズの内容は制限時間30秒の間にそれぞれのシダ植物(生体標本)が図鑑上のどの種と対応しているのかを考えるものである。一般的に幼児,小学生の発達段階では,種間の違いを認識することが難しいとされているため,必要に応じて標本数を減らしたり,観察のポイントを教えたりすることで対応した。企画を通じて植物の「分類」を体験できる点が本展示の特徴である。一方中学生以上の大人には、生体標本の中から知っている、もしくは見たことのあるシダ植物を選んでもらい,分類を研究する学生としての立場からシダの魅力や面白さが伝わるような解説を行った。例えば、ソーラス(胞子嚢)の付き方に着目すると葉の裏全体に散らばっているものから、辺縁に直線状につくものまで多様である。さらにその特徴は一般的には分類群の中で共有されていることを説明した。訪れた参加者はルーペを用いて普段あまり注目することのないシダ植物を観察し,多様性の一端に触れた。

(3)牧野標本館の紹介
パネル展示,およびリーフレットの配布を通じて牧野標本館の紹介を行った。牧野標本館は東京都立大学,南大沢キャンパス内にある自然史資料を保管する収蔵標本数46万点の国内でも有数の標本庫であるが,近隣の八王子市民を含め一般の方には殆ど認知されていない現状がある。しかし,分類学,生態学,保全学的研究に標本資料は必要不可欠なものであり,標本庫の存在意義を一般市民に伝え,恒久的に標本庫を維持し続けることは研究者としての使命である。パネル展示では標本が実際の研究でどのように活用されているのかを示し,さらに詳しい説明はリーフレット内にまとめられた。

【pic.2 企画展示の様子】


<活動内容/具体的成果>
(1)ポスター発表
来場者の中には生物や植物、大学機関における研究内容などに高い関心を持つ地域の方々がいらっしゃった。企画者は作成したポスターを利用して自身の研究内容を紹介した。相手が生物の専門知識を持たない一般の方であったので、内容を分かりやすい言葉に変換し、相手の理解の度合いに寄り添いながら丁寧に説明することを心掛けた。今回の研究発表により自身の研究を改めて振り返ることで、深く理解ができている点と、知識が不足していたり議論が浅かったりする点を整理することができた。また、一般の方から投げかけられた素朴で基本的な疑問は、自分が普段見過ごしていた根本的で核心的な内容であり、今後の研究の発展を促進させる良い材料となった。

(2)生体標本の展示
ブース内に展示された10種のシダの生体標本は特に多くの来場者の方の目を引いていた。小学生以下の子どもに対しては、手造りの図鑑と見比べて標本の種を見分けることをゲーム感覚で体験してもらった。これにより、シダという植物を手に取って知ること、植物形態の多様性を実感すること、シダを見分ける際の重要なポイント、自分の力で植物分類ができたときのうれしさや達成感などを、楽しみながら指導することができた。実際に、ルーペを用いてシダをじっくりと観察する子ども達の真剣なまなざしや、種同定クイズに正解し喜ぶ満面の笑顔を間近に見ることができた。一方、中学生以上の大人の中には、植物やシダにとても興味があり、自ら質問をしてくださる方もいらっしゃった。その方々には、種名や各種の形態や分布の特徴、さらに我々の研究室で行われてきたシダに関する研究について説明をした。また、来場者の方々からも分布に関して情報を提供していただくなど、お互いの知識の共有を果たすこともできた。これにより、より詳細に我々の研究分野について理解してもらえたり、植物に関する情報共有を通して新たなコミュニティを作り上げたり、来場者の興味の幅を広げたりすることができたと考えられる。また、これについても、一般の方に対して植物系統分類学の専門的な話をすることより、自分自身の説明スキルの向上に繋がったと考えられる。

【pic. 3 生体展示およびポスター展示の解説を行う学生と来場者】


<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
想定していた以上に来場者が訪れ、ポスターも生体標本の展示も楽しんでいる様子だった。今回の企画では、ただ展示をするだけではなく、手に取り体験したり、ゲーム感覚で遊びながら学んだりできる機会を作れるように意識をした。なぜなら、子どもを含め一般の方々には、私たちが前提としているような専門知識はなく、いかに一見難しく真面目そうなことを、興味をもって楽しく理解していただけるかが重要であったからである。その点においては、子どもから大人まで多くの方々の笑顔を作り出したり、「なぜ?」という疑問を生み出したりできたので、生物への興味や関心をもつきっかけを作るという目標は達成されたと評価する。また、私個人としては、企画時点で子どもの気持ちになりどのようにすれば楽しく過ごせるかを考えたり、お祭り当日も来場者を明るく迎え入れ、相手の反応を見ながらなるべくわかりやすい言葉で、知識や思いを伝えたりすることができたと思う。また、この経験は私自身の植物や研究への理解を整理する機会となり、とても貴重で有意義であったと感じている。共同企画者である米岡さん、片岡さんとともに、アイデアを出し合っては何度も吟味し、役割分担を明確にして準備、当日の運営に努めることができた。最後に、研究者として一般の方々と触れ合うことはとても学びが大きく、そして何よりとても楽しかったので、また同じような機会があれば積極的に参加し、より多くの人が楽しめるような企画を考えていきたい。(棚橋優花)

八王子いちょう祭の学生天国へ研究室として出店し,研究内容の紹介,シダ植物の生体標本展示,牧野標本館の紹介を行った。当日は1171人の来場者が私たちのブースを訪れ、興味深そうに研究内容を読み込んでいる方から兄弟でクイズに挑戦される方まで幅広い年代のお客様に企画を楽しんで貰うことができた。とりわけ本企画で最も力を入れて作成した「シダ植物の絵合わせクイズ(生体標本の展示)」は多くの来場者に講評で,小学生以下の子供からご年配の方まで企画に参加していただいた。企画者は,大学4年間を通じて教職課程を先行しており、子供の発達段階に応じて柔軟に説明の仕方を変えたことが成功の鍵になっていたように思う。また,当初は一般の方がどの程度研究ポスターを読んでくれるのか,見ていただけたとしても理解してもらえるか不安だったが、意外にも植物に詳しい方,博士号を持っている方,学校の教員,他大学の教授が来場された際にはまるで学会のポスターセッションのようなレベルの高い議論をすることができた。企画を通じて植物系統分類学を一般市民に紹介し,シダ植物の魅力、面白さを伝える中で生物多様性の奥深さに気づいて貰うことができた。さらには標本庫の役割、標本資料がどのように活用されているのかを説明することによって自然科学に関する普及啓発,広報を行うことにも成功した。昨今は学園祭の一般公開が中止になるなど、一般市民に対して研究紹介をする機会が減っており,このような対面での交流の場は非常に貴重であった。(米岡克啓)

当日は天候や来場者にも恵まれ、滞りなく運営ができた。今回はおおむね中学生以下の来場者を対象としていたが、幅広い年齢層が訪れ、それぞれの世代がそれぞれの楽しみ方をしていた。展示の計画にあたっては、準備に相当な時間を要した。特に、観察のためのシダ植物の生体を展示するために野外で採集を行ったが、11月の時期や、悪天候によって想定していた種が集まらないことが想定されていた。しかし、我々は日頃から身の毛がよだつような険しい場所で採集を行い、しかも目的の種を発見する目やセンサー、感覚、第六感が研ぎ澄まされている。そのため、苦労することなく材料の収集が可能であった。普段から行ってきたことが準備にも役に立った。(片岡利文)
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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