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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 八王子いちょう祭りにおける研究&生き物紹介|植物発生生理学研究室&いきもの!サークル東京(企画経営演習)
実 施 者: 渡辺真史、薄田真由、小林龍太郎、山谷遼、川本高司
実施場所: 陵南公園分園(いちょう祭りD会場・八王子市)
実 施 日: 2021年 11月 20日
対  象: 第42回八王子いちょう祭りの来場者(約1200人)

<概要/目的>
 当企画は、学内登録団体 いきもの!サークル東京と生命科学専攻の合同企画である。本企画の大枠での目的は、来場者に生き物への興味をもってもらうことである。それを達成するには、魅力を知る人から直接解説を聞くことが最も効果的だと考えている。
 いきもの!サークル東京には多様な生き物好きが所属しており、企画者には好きな生き物やその採集法に関する展示し、小学生やその保護者に生き物への興味をもってもらうことを目的にした。
 院生の企画者は、自らの研究意義を説明し、専門知識を必要とする事象に対して市民にわかりやすく伝える力を高め、私たちが学んできたことを社会に還元することを目的とした。これは研究者として求められる責任の内、社会的責任と説明責任を果たすことにもつながる。来場者について以下の目的を設定し、実施を行った。

(1)生き物に興味・関心をもってもらい、生き物の多面性や不思議な点について学んでもらう。
(2)都立大生命科学専攻において、どのような生き物で、何を明らかにするために研究をしているか認知してもらう。

[植物発生生理学研究室]
 植物発生生理学研究室では、植物の受精や胚発生過程の再現によって発生原理を知り、新たな植物を創生することや、細胞の運命決定様式の解明を目標に研究している。実験材料の一つであるイネは、日本の主食である米を実らせる最も身近な植物である。しかし、田の面積減少によりイネを間近に見る機会が少なくなり、開花している姿を見たことのある子どもも少なくなっている。そこで、胚乳が発達する前のイネの花を見てもらい、花の構造を学んでもらうことを目的とした。
 また、モデル植物のシロイヌナズナは、名前こそ有名であるが、生物学に精通している人であっても、生体を見たことのある人は少ない。そこで、シロイヌナズナとイネを比べてもらい、花の構造の違いやモデル植物としての有用性を理解してもらうことを目的とした。

[いきもの!サークル東京]
 近年、子どもが野外で遊べる場所が少なくなり、生物と触れあう機会も減少している。
特に湿地面積は全国的に減少しており、湿地に足を踏み入れたことのある人は若年層ほど少ないだろう。湿地環境を保全するために、当サークルは松木日向緑地で谷戸田ビオトープを整備し、湿地環境に適応した生物へ生息空間を提供している。そこで、1. 生き物の魅力や面白さを紹介し、生き物の興味を持ってもらうこと 2. 日頃の活動を紹介し、ビオトープの存在意義を理解してもらうことを目的とした。


<方法/企画としての特徴>
淡水魚の展示(小林)
 出展日の前日と当日朝に河川へ赴いて魚類を捕獲し、数十匹の生体を用いて展示を行った。

ライトトラップの紹介(山谷)
 ライトトラップの説明と採集できる昆虫の画像を載せたポスターの作成をした。また、紫外線ライトなどの機材や鱗翅目の標本も展示した。

谷戸田ビオトープの紹介と活動紹介(薄田・渡辺)
 谷戸田ビオトープは2018年度より整備を始め、定期的に生物観測を行っている。整備年数が進むごとに、これまで見られなかった種が発見されるようになり、整備の効果が現れつつある。本展示では、これまでの定期活動で記録した谷戸田ビオトープに特徴的な生物種をポスターで紹介し、湿地環境の生物について興味をもらうことを目的とした。
 また、整備活動を写真を用いて紹介し、活動目的やビオトープの存在意義について理解してもらう工夫をした。

植物発生生理学研究室の紹介(渡辺)
 植物の個体レベルの理解を目的に、当研究室で扱っているシロイヌナズナとイネの開花株およびポスターの展示を行った。2種を比較しながら花の構造を学んでもらい、それぞれの構造物の役割や相同器官の対応について学んでもらった。開花株の観察にはスタンドルーペを使用し、のぞき込むだけで拡大された花を観察できるようにした。大人と子どもの身長を考慮し、ポスター上部に研究室の紹介および実験材料の説明を載せ、下部には子ども向けの解説イラストを配置する工夫をした。


<活動内容/具体的成果>

 当出展ブースへ来場者はのべ1171人(1日目581人、2日目590人)だった。
外見による来場者年齢層の分類では、右図の通りであり、企画時の想定対象である「小学生とその保護者」に多く来場していただいた。当ブースは学生出展者の中で最も賑わい、多くの人に興味や関心をもってもらうことができた。

淡水魚の展示(小林)
 河川に生息する魚類について、数十匹の生体を用いて展示を行った。動きのある魚類は特に子どもの興味を惹き、ブースに入ってまず初めに見に行くのは水槽であった。展示の中で、最も注目を浴びたのは店名板前に設置した約70 cmのライギョである。最も集客力を発揮した展示であり、幼稚園児からご高齢の方まで年齢に関係なく興味をもっていただいた。ライギョの説明を通して、テント内に誘導することで他の展示を見てもらう機会を多く得た。
 展示物の解説は展示スペースに制限があったため、QRコードを水槽の前に設置し、WEB上にアップロードした。WEBページは小林の自作であり、このサイトから閲覧することができる。実物を観察しながら手元のスマートフォンで様々な解説を見ることが可能となり、興味を持って長い時間とどまる来場者も多かった。

ライトトラップの紹介(山谷)
 昆虫に興味のある親子が特に興味を持ち、具体的な採取方法や標本について説明を求められる場面が多かった。

谷戸田ビオトープの紹介と活動紹介(薄田・渡辺)
 ポスター展示の中で、特に生き物紹介が注目を浴びており、他にもどんな生き物がいるか聞かれ、興味をもってもらえることが多かった。南大沢周辺の住民の方も多く来場し、ビオトープについて認知してもらうことができ、是非訪れたいと仰ってくださった方もいた。持ち込んだ藁で藁縄体験をしてもらい、植物発生生理学研究室のイネ開花株を見てもらうことで、イネについても興味をもってもらうことができた。


植物発生生理学研究室(渡辺)
 実験材料について理解を深めるために、シロイヌナズナおよびイネの花を実際に観察してもらい、それぞれの特徴を小学生にも分かりやすく説明した。研究内容の紹介はポスターを使って解説し、画像を中心とすることで、一般の方でも理解しやすいものを作成した。展示を見に来た子どもに花の構造について説明すると、熱心にスタンドルーペを覗き込み、観察する姿が見られた。また、生命科学分野の研究者も訪れ、深い議論もする場面もあった。



<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
 本企画を実施する上で、本学の学生や教職員だけでなく、八王子コンソーシアムの職員や八王子学生委員会の学生方、いちょう祭り運営委員会の職員など多くの組織と調整を行い、実現できた。COVID-19感染拡大の影響で2度の延期で混乱が起き、直前まで当日の流れや備品についての連絡が届かない状況があった。こちら側から、出展面積や借用できる備品の確認、書類の提出期限など必要な情報を洗い出し、適切な組織へ連絡をとったことが当日の展示が成功できた要因の一つだと思う。
 企画の段階で、対象者を分析し、企画者同士で目的を共有したことである程度統一性のある展示になった。一方で、企画内容についてお互い共有することができず、当日になって初めて知ることになった。他企画者の展示内容について来場者に聞かれる場面も多く、聞かれるたびに担当者を探すことが多くあった。COVID-19感染拡大防止の観点で、ブース内の人口密度を下げるためにも、事前に展示内容の概要を共有すべきだったと思う。
 小学生でも理解できるようなポスターを作成したものの、ほとんどの子どもは興味を示していなかった。子どもが真っ先に向かうのは、動きのある生体展示で、ポスター展示は眼中にないようだった。今後、同様の企画があればポスターは大人向けに作成し、子ども向けには展示物の真横に短いキャプションを置くといった改善をしたい。(渡辺)

<謝辞>
当企画の全面的なバックアップをしてくださった、東京都立大学ボランティアセンター ボランティアコーディネーターの齋藤元気様に深く感謝し、お礼を申し上げます。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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