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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 八王子学生天国における研究&生き物紹介|動物系統分類学研究室&いきもの!サークル東京
実 施 者: 荒木葵、加藤憶人、沓掛丈、堺琢人、長井聡道
実施場所: 八王子駅前西放射ユーロード
実 施 日: 2022年 5月 8日
対  象: 第17回学生天国の来場者 1000人以上

<概要/目的>
 本グループは八王子地区の大学による2022年度の合同文化祭である「第17回☆学生天国☆」に、都立大登録団体いきもの!サークル東京と共に出展し、生物を題材とした展示を行った。企画者各員が出展スペース内に独自の展示を設置し、来場者に説明を施した。

 この企画には統一的な目的として、「生物について教育普及を行うこと」と「企画者自身の生物への理解度と伝達能力の向上」の2つがあった。

 さらに企画者ごとに以下の詳細な目的を設定した。

【荒木】
 八王子市やその周辺地域に住む方々を対象に、実際に八王子市の河川環境に生息する水生生物、並びに東京都立大学構内の谷戸田ビオトープでの生物と活動紹介の展示をして、身近な河川や田圃の生物に興味・関心をもってもらい、またそのような生物が生息できる自然環境を保全していく大切さを伝えることが目的である。私自身はこの企画を通して、生物学を専門としていない方でも、老若男女問わずに展示内容を理解し、楽しめるような工夫をすることで、今後の研究発表や教育的な活動に活かすことを目的とする。

【加藤】
 本イベントの参加者に対して生物を身近に感じてもらい、少しでも生物学のおもしろさに気付いてもらう。私自身については、参加者に伝えたいことを簡潔にわかりやすく説明できるようになることで、研究発表を行う場合などのコミュニケーションの獲得に繋がる。

【沓掛】
・来場者に生物多様性を体験的に学んでもらう。
・来場者に節足動物の知識と魅力を知ってもらう。
・私自身のプレゼン能力やコミュニケーション能力を向上させる。
・自分の研究対象に対する客観的な意見を得る。

【堺】
・動物の個性およびアリをテーマに企画を行うことで、自身の研究の背景の理解を深める。
・一般の方向けに説明することで、わかりやすく簡潔に伝える技術を向上させる。
・参加してくれた方に対して、動物の個性やアリについて知る機会を作り、興味を持ってもらうことで、自発的な学習を促進する。

【長井】
 洞穴生物(主にクモ類)の生態という題を通じて、参観者が日常生活で意識を傾けることの少ない生物相への興味・関心を喚起することを主な目的とする。また、開発による洞穴生物相への影響を併せて紹介することで、希少生物の保護にも焦点を当てる。
今回の発表は非研究者層による聴講が大多数を占めることが予想されるため、専門用語や相手の専門知識に頼らない説明が求められる。大学院修了後の選択肢には学芸員も存在するため、上記のような状況における発表の経験を積むことも個人的な目的の一つである。

<方法/企画としての特徴>
 この企画では各員が独自の展示を設置した。これにより来場者はそれぞれの展示を見ることで、進化生態学から系統分類学を学んだり、個々の生物の形態や生態を知って生物多様性への理解を深めたりすることができた。また、実際に生きた生物(サンショウウオやオオヤスデなど)の展示や、裏返えして答えを見るクイズカードの設置により体験的学習を促した。
 さらに、付箋とペンを設置して各展示に対して来場者が自由に感想を貼ることができるという取り組みも実施した。これにより、客観的な意見が誰の目にも見える形で展示内に共存し、企画者だけでなく来場者も多角的な考え方を知ることができるようになった。なお、感想を貼ってくれた来場者にはオリジナルポストカードをプレゼントするというキャンペーンも同時に行い、沢山の来場者に感想を貼っていただけるように促した。


↑来場者に感想を貼ることを促すブース


↑感想を貼ってくれた来場者にオリジナルポストカードをプレゼントするキャンペーンのブース

<活動内容/具体的成果>
 開場時間の10時から16時の間、絶えず来場者が入り盛況のうちに終えることができた。


↑企画の様子1


↑企画の様子2

 付箋によって感想を得るというキャンペーンでは合計178枚の付箋が貼られ、来場者から沢山の意見・感想を得ることができた。


↑付箋がはられた展示の様子1


↑付箋がはられた展示の様子2


↑付箋がはられた展示の様子3


↑展示ごとの貼られた付箋の枚数
 沢山の展示に付箋がはられたことから、広くさまざまな展示が来場者に興味を持たれたとわかる。一方で特にヤスデの展示には沢山の付箋が貼られていることから、この展示が特に来場者から興味を持たれたことがわかる。現地の様子やコメントの内容から生きたオオヤスデの展示が来場者に非常にインパクトを与えたのだと考えられる。生きたオオヤスデは現地で最も体長の長い生きた節足動物であって、展示中によく行動していたので、こうした見た目で目立つ・見て面白いという特徴が興味を引いたと推察される。

 また、特徴的な展示と賑わいから、学生天国の様子を取材していたNHKや読売新聞による取材も行われ、5月11日にはNHKによって私達の展示の様子が放映された。


↑放映された様子1


↑放映された様子2

 以下に各員の展示内容や成果を示す。

【荒木】
八王子市南浅川の生物(ホトケドジョウ、シマドジョウ、ヨシノボリ類、ブルーギル、アカミミガメ、ハグロトンボ類とコオニヤンマ類のヤゴ)と都立大構内ビオトープの生物(トウキョウサンショウウオ、マツモムシ)の生体展示を行った(ブルーギルのみ液浸標本)。展示した生物は、絶滅危惧種の希少なものから、特定外来生物として駆除の対象になっているものまでさまざまなカテゴリーがある。このような生物は近頃テレビ番組などのメディアでも取り上げられているため、そのような番組を見ているお子さんを中心にとても人気があり、関心を持っていただけた印象である。また、大人、特にご年配の方々からは「懐かしい、子供の頃は田舎でよく捕っていた」「近隣の川にもこんなに色んな生き物がいることが知れて良かった」などのご意見をいただき、八王子市の自然の魅力を伝えることができた。


↑設営完了時の荒木の展示

【加藤】
生き物の採集方法について、実物(ビーティングネットやシフティング用のネット))とそれぞれの方法を説明した紙を用意し、展示を行った。今回の企画では、小学生や小学生以下の子供とその保護者が多く、それらの方々から質問をいただけることがあった。説明を行う場合には、言葉だけでなく実物を使ってもらうことによって、より身近に感じてもらえるように努めた。その結果、専門的な内容も含まれてしまうにも関わらず、理解していただき、興味を持ってもらうことができた。


↑設営完了時の加藤の展示

【沓掛】
 タンザニアオオヤスデを始め、比較的大型の節足動物の生体や標本を展示した。こうした生物は見た目的にもインパクトがあり、来場者の興味を引いていた。その証拠として、私の展示の中で10枚以上の付箋が貼られていたのはオオヤスデ類を含むヤスデ、ダイオウサソリを含むサソリ、オオムカデ類を含むムカデの展示であった。これらについては口頭での質問も他の展示より多く受けた印象で、各5件以上の質問を受けていた。また、実際に動く様子や実際の形態を観察した来場者からは「こんなに大きいのもいるとは思わなかった」、「もっと攻撃的だと思っていたのに、実際はあまり動かないのか」といった感想を頂いた。このように来場者の知的好奇心を刺激し、生物多様性や生物の実際を体験的に学んでもらうことができた。貼られた付箋からは「デカくてキモい」や「自宅でも見たことがある!」、「ゴキブリが丸くなるとは初めて知った」など様々な客観的なコメントが得られた。


↑設営完了時の沓掛の展示

【堺】
・アリのクイズに関する資料は小学生を中心に非常に好調であった。そして、アリのクイズをきっかけに様々な質問を数多く投げかけてくれた。それに対して、小学生にも分かるように簡潔に伝えることができ、簡潔に伝える技術の向上に繋がった。特に、アリはどの生き物に近い生物か?というクイズに対して、正解がシロアリではなくミツバチであること。そして、シロアリはゴキブリに近い生き物である。という問題に対して非常に興味を持っていただけた。
・動物の個性研究に関する研究紹介に関しては、アリのクイズよりは難易度が上がってしまったため、小学生高学年以上の方や親御さんを含む大人の方に好評であった。特に、個性とカースト間の行動の違いに関して興味を持ってくださる方が多かった。説明をする際には、小学生には分かりやすく伝えるために、様々な例を用いて伝えた。そのことで、わかりやすかったという評価をいただけた。
大人には、なぜこの研究をする意義があるのか?を伝えることで、研究を応援していただけた。
 総じて、資料の内容に関しては好評をいただけた。改善点として、ポスター形式にしたり、より専門用語を減らしたほうがわかりやすいというアドバイスも頂いた。次回以降行う際は改善していこうと思う。


↑設営完了時の堺の展示

【長井】
洞窟内に生息するクモ類をはじめとした節足動物について、写真付きで解説した紙を設置し、一部の解説には対応する生体を展示した。洞穴生物に関する主な説明は口頭で行った。また、スペースの端が余ったため、クモを含む数種の好蟻性生物を寄生させたトビイロシワアリの巣を展示した。
客層は予想に反して子供連れの保護者や年配層が多く、小児層は主にサンロウドヨウグモ(展示した中でも最も大きい好洞窟性クモ)やアリの巣に惹き付けられていた印象を受けた。実際に、付箋紙に寄せられた感想の中には、好蟻性生物の展示へ向けたものが幾つか見られた。ただし、アリの巣を見に来た子どもに洞窟性クモの説明をしたところ、そちらの展示へ流れて生体を眺めつつ聞く様子が見られたため、全く興味を引かないトピックという訳にも見られなかった。「洞窟」という非日常的なシチュエーションに惹かれる心理は、子どもよりも年配者のほうが強いのではないかと思われる。以降、小児層へ向けた展示を組む際には、はじめにそのギャップを埋める努力(洞窟という場所への解説をはじめに入れるなど)を行う必要を感じた。


↑設営完了時の長井の展示

<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
 各員ごとに示す。

【荒木】
生体の展示の横に、イラストと一言解説をつけた。イラストがあると水槽の中にどんな生物がいるかイメージがつくため、イラストと水槽の中を交互に確認し、一種ずつ照らし合わせながら、じっくり観察していただけた。このような事から、自身の研究の発表や、教育的な活動にも、図やグラフだけでなく適宜、イラストや写真を入れることが、聞き手の興味を引き出し、理解を助けるためにもかなり有効であることが確認できた。
また、今回展示した水生生物は自分の研究テーマとは関係のないものであったため、次回以降は自分の研究しているハエトリグモ類などのクモ類を展示したい。それにより、この経営企画演習を、より直接的に、自分の研究発表能力の向上につながるものにしていきたい。

【加藤】
今回のイベントでは、想像をしていた以上にたくさんの方々に足を運んでいただいた。特に、子供が多くブース内は盛り上がっていた。言葉だけで説明をするだけでなく、ビーティング用のネットなど実物を見せて説明し、納得していただき私自身も含め楽しく学ぶことができた。しかし作成した資料について、子供に対してはなかなか興味を引いてもらえなかったことが課題であった。したがって、クイズ形式にするなどして、子供にも関心を抱いてもらえるような工夫が必要であった。最後に、イベント全体を通して生物、特に陸上節足動物に対して今までに興味がなかった人にも興味をひくことができ、普段聞くことができない一般の方々から意見を得ることができ、貴重な経験となった。

【沓掛】
 自身のプレゼン能力の訓練の成果として、ジェスチャーを交えて語ること、とくに節足動物それ自身のものまねをしながら語ることが聞く者の注意を引き付けてかつわかりやすく伝えるために効果的であるとの実感を得た。さらに行動・セリフ・意味を複合して擬人化した表現するとなお良い反応が得られた(例:腕を前方に突き出して振り回す動きをしながら「こんなふうに『どこかなーどこかなー』と触角を振って周りにある餌を探索するんですよ〜」と説明を施す)。今後もこういった表現でわかりやすく伝えたいと思った。
 反省点は準備や後処理に時間がかかりすぎたことである。私はたくさんの生物を展示して多様性を体験的に学んでもらおうと考え、他の共同企画者の数倍のスペースを埋めるほどの展示物を持っていった。しかしこの展示物を設営するためにかかる時間をあまく見積もっていたため、イベントの開場時間になっても準備が終わっておらず、お客さんが入っているなかで準備を継続する事態となってしまった。また後処理についても、この経営企画演習の報告書を作る時間を考慮せずに研究のための採集旅行や実験を組んでしまい、報告書の作成が企画実施の3週間後にまで及んでしまった。こうした時間感覚の鈍感さと計画性のなさは直さねばならないと感じた。このことを受けて、これまで予定名と開始時間だけを入れて終了時間設定をせずに使っていたグーグルカレンダーの使い方を見直した。しっかりと各予定をかかる時間も考慮して開始時間終了時間ともに入力して管理するようにした。また、スキマ時間にやろうと考えていることも、可能ならグーグルカレンダー上に入力して決めた時間に行うこととした。
 最後に、企画中は来場者から「こんなこと知らなかった」という声や「これについてもっと知りたいことがあるのだが...なんですか?」という質問を何度も聞いた。面白がって写真を撮る人やビックリして目をそらす人、家族にも見せようと呼びに行く人なども見た。そうした来場者たちの反応から、私は来場者に新鮮で面白い学びを提供できたと判断した。私はこの企画が成功したと考えており、この企画を実行して良かったと思っている。

【堺】
 今回は普段であれば伝える機会のない小学生や親御さんが対象ということもあり、最初は難しさも合った。しかし、極力難しい言葉を使わずに伝えていくことを心がけたことで、「分かりやすかった」や「おもしろかった」という言葉を頂けた。また、今回参加してくれた小学生は、動物に対して興味を持っている子が非常に多く、非常に嬉しい気持ちで一杯だった。

【長井】
今回の展示で心がけたことは、対話に重きを置いた解説を行うことであった。洞穴生物について説明する際に、まず非常に簡単な解説をしたのちにこちらから質問を投げるなどのことを行って、自らの興味や疑問を聞き手自身に見つけてもらうのである。そして、付箋に寄せられた感想を見た限りでは、それ自体は概ね成功であったと思われる。
反省点としては、口頭でのやりとりに重点を置くため、写真や文章での資料を可能な限り削ったことが裏目に出たと感じる場面が多々あった。客足が増えると、複数人へ同時に解説しなければならない状況に陥ることがあり、そうなると先にいた客ほど他の展示へ移って行ってしまい、お互いに不完全燃焼のまま終わってしまう。これに対しては、あらかじめ大人用/子ども用のハンドアウトを作成しておき、後から来た観覧者へはそれを渡して場を繋ぐなどの改善策が考えられる。

©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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