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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 聖光学院夏季自然体験授業
実 施 者: 長縄健(21846425)、吉峯知歩 (21846438)
実施場所: 寺家ふるさと村四季の家
実 施 日: 2022年 8月 24日
対  象: 神奈川県横浜市の聖光学院中学校・高等学校の学生(約20人)

<概要/目的>
神奈川県横浜市の聖光学院中学校・高等学校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定される進学校であるが、座学の知識の豊富さに比して、生徒たちの自然に対する実体験が希薄である。そこで、同校の課外実習授業「聖光塾」の枠組みを用いて、生徒たちを実際に自然の中に連れ出して自然体験を経験させ、生態学の知見と自分の体験を結びつけるためのワークショップにつなげたいと考えている。
この活動を通して普段生物学を意識しない人に対してどのように伝えると効果的か、教育的な観点を知る。

<方法/企画としての特徴>
聖光学院はSSHに指定されている学校であるが生徒たちは理科の勉強と経験を結び付けて考える事ができていない場面が多々見られた。それを踏まえ学生たちに実際に自然下にて観察をしてもらい、それについてこちらから質問を投げかけたり観察された現象について考察してもらうことで生態学的な思考の基礎に触れてもらう。
 午前中に野外で自然観察、昆虫採集を行い、里山の昆虫を中心に身近な生き物に直接触れる機会を提示する。午後のワークショップではまず午前中に採集した昆虫のうち、各自興味を惹かれた対象を選びスケッチをしてもらい、選んだ理由と魅力に感じたポイントを説明してもらう。生態学的な観点やスケッチの良い点についてコメントを返す。次に、採集した昆虫をサンプルとして定量的な生物観察を体験してもらう。例として、採集したトンボを用いて、体長と後翅長を計測しプロットし相関があるかを調べる、など。それらを通して身近なものでも観察、疑問提起によって研究テーマになり得ること、有用なスキルであることに気づく機会を提供する。

<活動内容/具体的成果>
安全管理や自然観察指導のアシスタントとして参加する
スケジュール 8/24(水)・25(木)
横浜市青葉区の寺家ふるさと村を実施フィールドとする
9:00-12:00 生徒たちと里山を歩きながら、昆虫採集。捕虫網の使い方を教え、網に入れた昆虫を自分の手で取り出してもらう。普段から昆虫に触れる機会のない生徒達に敢えて触らせることで、より近くで観察する機会になる。採集した昆虫はジップロックに入れ各自で保管する。
12:00-12:45 昼食・休憩
12:45-13:30 午前中に採集した昆虫のうち、各自の「面白いもの」を選んでスケッチ。
13:30-14:00なぜ面白いと思ったかを発表してもらい、それに対してこちらから生態学的な観点に触れられるようなコメントやスケッチの表現についてコメントする。
14:00-16:00最後に「生き物を定量的に観察する」というテーマでワークショップを行う。採集した昆虫をもとにグループごとに研究テーマを自分達で設定し仮説検証のプロセスを体験してもらう。身近な現象から問いを立てることはどんな分野でも基盤であり生態学に限らず体系的な物事の理解が大切であると知ってもらうことができる。注目した現象について仮説を立て定量的なデータをとって検証することは基礎研究から最先端の研究まで用いられる研究手法であり、自然科学を研究するベースとなる考え方である。定性的な観察だけでは気づけない新しい事実を発見できる楽しさを感じてくれたと考えている。
野外での解説や、問いの投げかけ方、結論への誘導など、自然教室や観察会で主催側に必要な技術について知ることができた。いきなり答えを提供するのではなく、生徒の考えと理由を聞く。それについて否定はせず、矛盾がある点などをどう説明するかを聞く。こちらからは問いかけるように誘導することで、自分で考え出した、という感覚を持たせる。
後半のワークショップでは定性的、定量的の違いをスタッフの身長を使って説明した。研究テーマを設定する際に生徒達のアイデアを潰さない範囲で、手元にあるサンプルと短い時間内で検証可能なテーマに誘導する。

<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
昆虫採集を里山で行う際に田んぼや畑に入ることや網で作物に触れることはルール違反であり、それについて生徒達に徹底して注意を促した。研究目的であってもプライベートな虫取り(趣味など)であっても採集禁止のエリアであるなど地域ごとのルールの範囲内で行うことが重要であり、違反者が増えれば採集禁止になりかねず、研究の停滞に繋がってしまう可能性もある。前半は注意を重ねても田んぼに網を入れる生徒がいたが、重要な点であると考え強く注意する様にしたことで解決した。初対面の中学生との接し方を模索していたが、当初のやり方では注意喚起としては不十分であると分かった。
スケッチでは特徴を捉えて描くことを目標として設定し、用紙全面を使って大きく描くことを伝えたため、前回のアウトリーチよりも注意深く具体的に観察してくれた生徒が多かった。ワークショップでテーマを考える際には、結果が出た時に、なぜそうなるのかを考察できる(する余地のある)テーマになるよう誘導することが難しく苦戦したが、サンプルの昆虫を大雑把に分類し比較出来る点を考えさせたのは効果的だった。 (長縄)

今回のアウトリーチでは、昨年行った内容に加え、主催者にアドバイスをもらいながら自分達でワークショップの企画、運営を行った。アウトリーチには、普段から勉強の習慣がついているが、教科書的な勉強を中心としており、外に出て行う体験と知識が繋がっていない学生が多い。そのため、実際の体験をさせることと、それを学問に繋げるという目的のもとワークショップを企画した。
研究者が行っているような、目の前に存在する物や現象について解明することのためには、教科書的な既知の事実を学ぶだけでは足りず、それぞれの本質的なところが何なのか、実験を重ねてそれを切り崩し、少しずつ考えていくことが必要になる。私自身、教科書的な勉強が好きで、それを続けるうちに偶然自然教育に関わる機会ができたため、むしろ学生側に近い感覚であったが、大学、大学院で研究室に所属し、研究を行ったことでこのようなことが必要だと思うようになった。この経験を活かし、自分が学んできたことを学生たちに伝えられるワークショップになったのではないかと考える。また、ワークショップを企画する上で、そもそも研究とは本質的にどのようなことを行っているのか改めて考えたり、学生たちにどうしたら分かりやすく伝えられるか考えたりする作業は自分の今後の研究にも活きる良い経験になったのではないかと思う。(吉峯)
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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