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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 〜 研究&生き物紹介 in みやこ祭 〜
実 施 者: 荒木葵、加藤憶人、沓掛丈、堺琢人、長井聡道
実施場所: 12号館206室・207室・208室
実 施 日: 2022年 11月 5日
対  象: みやこ祭2・3日目来場者(展示入場者数386人)

<概要/目的>
 本グループは東京都立大学の2022年度の大学祭である「2022年度みやこ祭テクノスクエア部門」に、都立大登録団体いきもの!サークル東京と共に出展し、生物を題材とした展示を行った。企画者各員が出展教室内に独自の展示を設置し、来場者に説明を施した。
 
 この企画には統一的な目的として、「生物について教育普及を行うこと」と「企画者らが所属する動物系統分類学研究室の研究活動の発信」、そして「企画者自身の生物への理解度と伝達能力の向上」の3つがあった。

 さらに、企画者ごとに以下の目的が設定された。
 
【荒木】
 琉球列島に生息するクモ類(クモガタ綱)や昆虫類の生体、標本の展示を通して、琉球列島の陸上節足動物の多様性のおもしろさを伝える。また、私の研究テーマである琉球列島のハエトリグモの多様性に関して、説明スライドと標本の展示を行ない、来場者に研究の説明をすることで、研究をアウトプットする能力の向上を図る。

【加藤】
本イベントにおいて、生命科学や生物に興味のある来場者に向けて、マイナー分類群であるヤスデなどの土壌動物を、少しでも興味を持ってもらい、生物への理解を深めてもらう。また、来場者の方々にわかってもらえるように紹介をすることで、研究発表へのスキルを向上させることを目的とする。

【沓掛】
 リンネ式分類学の根幹たる二名法による学名について展示制作・公開を行うことで、企画者自身が学名への理解を深める。また、来場者に学名を普及するとともに、率直な意見を知ることで、企画者自身が命名者となったときの学名の扱いについてインスピレーションを得る。そして生物をより良く理解し学ぶために欠かせない学名について、来場者に楽しみながら学んでもらう。

【堺】
  「動物の集団行動」をテーマに企画を行うことで、自身の研究の背景の理解を深めるとともに論理的で端的にそして簡潔に伝える技術の向上を目的とする。また、参加してくれた方に「動物の集団行動」についての知見を深める機会を与え、自発的な学習の促進を目的とする。

【長井】
 洞穴生物(主にクモ類)の生態という題を通じて、参観者が日常生活で意識を傾けることの少ない生物相への興味・関心を喚起することを主な目的とする。また、開発による洞穴生物相への影響を併せて紹介することで、希少生物の保護にも焦点を当てる。
今回の発表は非研究者層による聴講が大多数を占めることが予想されるため、専門用語や相手の専門知識に頼らない説明が求められる。大学院修了後の選択肢には学芸員も存在するため、上記のような状況における発表の経験を積むことも個人的な目的の一つである。


<方法/企画としての特徴>
 本企画では企画者各員が独自の展示を設置し、その場で来場者に対する解説や質問対応を行った。設置された展示内容は生物の命名に関するものから、進化生態学に関するもの、系統地理学に関するものなど、複数分野にわたった。また、手にとって観察できる生体や標本、裏返して答えがわかるクイズ、書き込み式アンケートにより、能動的な学習ができる環境が整えられた。加えて、ふれあいコーナーの設置により、生物を実際に触ってその質感を知ったり、細部を観察したりできる場も用意された。これら上述した工夫によって、来場者は生物に関する様々な知見を体験的に学び、深めていくことができた。
 
 さらに、いきもの!サークル東京によって設置された展示では多様な分類群が扱われており、来場者は展示を見て回ることで、生物多様性を体感することができた。

<活動内容/具体的成果>
 みやこ祭の入場規制にもかかわらず、2日間で386人が来場した。
 
 各員の設置した展示を見る人や各員に解説を求める人もおり、来場者の好奇心が刺激される、能動的学習の場が提供できていたと考えられる。来場者は少なからず生物に関する理解を深めることができただろう。

 以下に展示の様子や各員の活動の様子を写真付きで紹介する。


↑クイズを解きながら書き込み式アンケートに回答している来場者


↑来場者(左3名)に説明を施す荒木(右)


↑ふれあいコーナーにて恐る恐るふれあいを試みる5秒前くらいの来場者(右2名)と説明を施す沓掛(左)


↑来場者(右)に説明を施す堺(左)


↑来場者(右2名)に実物の細かな特徴を見せながら説明を施す長井(左)

<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>

 各員の感想や課題について以下に示す。

【荒木】
 来場者の方々からは「日本(沖縄)にこんな大きなクモがいると思わなかった」「日本にもサソリがいることは初めて知った」「漫画やテレビ番組で見たことある種を実際に見れて感動した」などの感想をいただき、虫が苦手な人、得意な人問わず、琉球列島の陸上節足動物に関心を得てもらえたと考えられる。
 一方で私の研究に関する質問は少なく、深い話はあまり出来なかった。理由として、学園祭の来場者の多くは研究には興味が薄く、学園祭として店を周るついでに立ち寄った方が多いからと考えられる。実際に、普段のオープンキャンパスでのオープンラボでは、「実際にこれらの生き物の何を研究するんですか」という質問を多数いただくが、今回の学園祭のオープンラボではそのような質問はほとんどなかった。また、もう一つの理由としては、私自身の展示の仕方にあると考えられる。説明スライドはA4一枚程度であったので、多くの派手な展示の中で目立ちにくかった。次回以降はA0サイズのポスターや、採集道具なども展示して、より規模の大きく、目立ちやすい展示を検討する必要がある。

【加藤】
今回のオープンラボを含めた大学祭での展示では、子供からお年寄りまで幅広い年齢の方々に足を運んでいただいた。実際に実物を多く展示し説明することで、よりイメージを持ってもらうことができてよかった。普段はあまり目にすることのない生物であったため、反応も好意的ものが多く、来場者も楽しんでいただき、私たち説明をする側も話をしていて一緒に楽しむことができた。しかし、研究発表についてはなかなか話題にすることができなかったため、これについても興味を持ってもらうような資料を用意するべきであった。全体を通して、かなり賑わっていたため、生物に対してより興味を持ってもらい、土壌動物に少しでも関心を引くことができたと思われる。

【沓掛】
 子供から大人まで幅広い方に来場いただいた。そして設置していた学名から生物を予想するクイズの回答アンケートには、96名からの回答が得られた。
 クイズには、読んだ学名がそのまま生物名になっているものから、比喩表現となっているものまで7問用意していた。このうち特に、「巨大である」ということの比喩で命名されたGodzillius(ゴジラ属、ムカデエビ科)は、モデルにされたゴジラの知名度がある分、既知の印象に引きずられ、ワニなどの爬虫類や恐竜であるとの予想をした回答が多く集まった。このようなよく名前の知られたキャラクター等を命名に用いる際は、どのような印象を持たれるかをよく調べた上で命名することが重要であると感じた。しかしまた同時に、最もクイズで注目を集めていたのもGodzilliusであったため、保全上重要であるといった理由で世間から注目を集めたいという場合にこのようなよく知られた名前を命名することが有効であるとの考えも得た。
 クイズはめくって答えがわかるように工夫したが、初日はその仕組みが伝わりにくかった。2日目は模式図入りでクイズの答えを見る方法を案内したところ、答えを確認できない人は減ったように感じた。しかしそれでも答えがどこにあるか(そもそも答えがあるのか)を直接案内しなければわからない人は10名以上いた。来場者を観察していると、掲示を見ずに次々と問題文だけを見てしまう行動が多く見られた。今後は問題文の下に答えの案内を併記するといった工夫が必要に感じられた。その他にも、問題文に「展示を見てから答えよう」というような文言を入れて、問題文以外の展示にも目が行くような工夫も有効だと考えられる。
今回得られた考えをもとに、一般の人からも愛されるような名前の命名に向けて努力したい。また、よりわかりやすい展示を作って教育普及活動を続けていきたい。


【堺】
今回は、主に動物集団行動に関わる研究紹介およびアリのクイズにを行った。動物の集団行動に関する研究紹介に関しては、高校生から70代までと幅広い年代の方に好評であった。特に、アリの集団行動に関する紹介で、「アリはどうやって新しい巣への引っ越しを決めているの??」をテーマに考えてみる資料が最も好評であった。一般の方にも分かりやすいように「意思決定」をメインで説明資料を作成したことが功を奏した。また、複数の論文を読み、想定される質問を事前に考えたおかげで、質問に対してもスムーズに説明することができた。アリのクイズは小学生から高校生など年次の若い方を中心に非常に好調であった。特に小学生に関しては何問正解した!と友達と楽しみながらクイズに取り組んでくれて微笑ましかった。そして、アリのクイズをきっかけに様々な質問を数多く投げかけてくれた。それに対して端的に伝えることができたため、簡潔に伝える技術の向上に繋がったと考える。アリのクイズの中でへー。という回数が多かったものとして、アリはどの生き物に近い生物か?日本にアリは何種類生息しているのか?といった問題であった。総じて、資料の内容や説明に関して客観的な評価としても、分かりやすかったという評価をいただけたのでかなり良い成果をあげられたと考える。最後に、感想・課題としては、一般の方を対象としていたため、事前準備として専門用語をどのように伝えれば理解しやすいか非常に悩み時間を使った。しかしそのおかげで、説明の際に分かりにくいといった一般の方からの不満は2日間を通じて一度もなかったため個人的にうまくいったと満足している。また、一般の方と話している中で、「なぜアリの研究をしようと思ったの?」といった素朴な疑問を多く投げかけられた。その説明をしている中で、アリの行動研究の魅力やより拡大して生物学の魅力について存分に伝えることができた。その結果、非常に面白いといった声や研究を応援する声を多くいただけた。反省点としては、自身のアリの行動実験の動画を加工し説明の際に使用しようと準備していたが、一般の方に説明する時間は多くても1人当たり10分程度であったため、5分ほどかかる動画を使用しての説明は適していなかった。今後このような機会があった際には、30秒~1分程度に圧縮した動画を準備するよう心掛ける。

【長井】
 今回は洞穴生物の生態に関するプリント、パネル展示、クイズ形式のアンケートや生体展示を通じて、生物の地下空間への適応に関する展示をメインに行った。アンケートは、まず好洞穴性クモ類であるホラヒメグモ類のうち洞穴内・外で採集した2タイプの生体を比較用に展示し、来場者はそれを観察したのちに、見て取った両者の外見的な違いや生態やその他の特徴の差異を予想して備え付けの付箋に書くという形式で行った。結果は「洞内のものは体色が薄い」「模様の有無」などが過半数を占め、これは両生体の外見的な差異として最も顕著なものであった。また、おそらく予想として書かれたのであろう「眼の数が少ない」「仮死状態になれる」などの書き込みもあり、これは展示されていたホラヒメグモの特徴としては不正解ではあったが、記入者が考えた“洞穴生物の特徴”を反映している可能性が高く、将来再び今回のような展示を行う際の参考になると思われる。
 今回の課題としては、根本的な問題として「来場者の目を引けていなかった」ことが挙げられる。近隣の展示が非常に人目を引く類のものだったこともあってか、大きなタイトルロゴなどを出していなかった自分の展示は素通りされてしまうことが多かった。また、展示の解説は基本的に“洞穴生物の特徴→それを踏まえた自分の研究の解説”という流れに沿って行ったのだが、説明終了後にあまり質問が返って来なかったため、口頭での解説自体はあまり深く理解されていなかったものと思われる。こちらに関しては、展示用の浅く広い少数の説明用紙と、解説時にのみ用いる追加の説明用紙を分けて用意するなどの対策が考えられる(おそらく全ての情報を展示ブースに置いても、今回のような客層だと読まれることはほぼない)。次回の展示では、来場者に「見たい」と思わせるブース設営と、口頭での解説を補助するための資料(そしてそれを用いることを前提とした解説の練習)の用意を念頭に置いていきたいと考えている。


©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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