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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 2022年度細胞遺伝学研究室オープンラボ(@テクノスクエア)「FLY×FAMILY」
実 施 者: 平石拓海, 中野日香理, 安田朱里, 小口洋祐, 外山藍夏, 田千佳, 船津七海, 桑原舞衣
実施場所: 12号館203室
実 施 日: 2022年 11月 3日
対  象: オープンラボ来場者(計252名)

<概要/目的>
●対象者視点
 一般の方にとって「コバエ」は流しの三角コーナーに湧いている嫌悪の対象でしかないが、そのコバエの一種であるショウジョウバエ(正式名称でキイロショウジョウバエ)が遺伝学の基礎から応用までの幅広い分野の研究に役立っていることはあまり知られていない。家屋でよく見られているはずの本種が、実は有用であると周知させることができれば、一般の方々の知的好奇心を大きく刺激することができるのではないかと考えられる。
 また、遺伝学の面白さも、まだまだ世の中に伝わっていないだろう。例えば遺伝学で使われるDNAや遺伝子といった用語は、「DNA親子判定」や「遺伝子組み換え作物」などの単語でばかり知られ、ネガティブな印象を強く持たれている。そのため、生物体を構成する遺伝子に迫る学問である遺伝学の面白さは、まだまだ世の中に伝わっていない。しかし、例えばHox遺伝子を一つ変えるだけでも体中に複眼ができるなど、体の状態を劇的に変化させうるという、遺伝学の力強さを伝えることで来場者の視野を広げたい。
 本研究室では、これまでキイロショウジョウバエを用いた遺伝学的研究を行ってきたため、本種や遺伝学の魅力を一般の方へ伝えるうえで、有力な学生や適切な資料が揃っている。本企画では、学術的な広報が可能となるオープンラボとテクノスクエアの場を活用し、本研究室の強みを生かして、大学の近隣住民等の方々へキイロショウジョウバエと本種を用いた遺伝学の面白さを伝える。

●企画者視点
・仕事を作るという仕事(平石)
 今回の展示は4部門に分けて行うが、私(平石)は4部門の統括を担う。統括役は往々にして多くの仕事を自分一人でこなしてしまいがちである。しかし今回の場合、他の共同企画者にも仕事を残す必要があり、一人でこなす訳にはいかない。この状況を利用して、グループで仕事を遂行する能力を身につける。他の履修者に対して、各自の長所や経験値を考慮して適材適所に人員を配置し、また各自に適切な量の仕事を割り振りつつ共同で仕事をこなす。この経験から、グループでの仕事を先導する能力を養う。
 また、各部門に仕事を割り振る際には、各自の仕事に対して十分に創造性の余地を残すようにする。統括役が一から十までのすべてを指示したり、また例年の展示内容をそっくりそのまま踏襲するだけでは、各部門にいる共同企画者が創造・成長する余地がなくなってしまう。また、より差し迫った問題として、各自が企画経営演習の企画書や報告書を書く際にオリジナリティを示すことも難しくなるだろう。とはいえ、履修者はいずれも非常に忙しいことを私自身も把握しており、忙しい中で例年の踏襲と自身で新たに考える内容の割合をどれほどにするかという点にも履修者の創造の余地があるだろう。

・内外の関係者とのコミュニケーションを図る能力(平石)
 今回の展示を行うにあたり、オープンラボとテクノスクエアの場を活用することになる。そうした中、私(平石)は統括役として各種の連絡のいわばハブ的な役割も担う。ラボの外部いる人、例えばテクノスクエアの運営委員とは展示場所や各種日程の交渉が求められるうえ、ラボ内の人とは各種の連絡や展示制作の準備の交渉が求められる。こうした状況を利用して、多くの人との連携に不可欠となる、コミュニケーション能力(自分の意図を正確に伝え、また通す能力、人の意見を聞く能力など)を向上させる。

・社会的に求められる人間像を知る機会 (安田)
 日常の研究では、分野内とはいえ様々な人と話す機会がある。しかし本企画経営演習ではこの基本軸に加え学外の多数の人が加わる。研究をやる上においては専門的な知識や科学的な観点からの研究者らしい会話は重要だ。しかし同時に社会一般的には、あらゆる人に対していかに正確に伝えたいことを伝えられるかも重要である。したがって本演習では、研究室からいったん離れ、学外の人と触れ合うことで、社会的に求められる像を企画経営を通して肌で知る機会の1つとしたい。

・人を惹きつけるための遺伝学を考える(桑原)
<概要/目的>の対象者視点の項目でも触れているが、遺伝学的な技術は未知の恐ろしい技術というネガティブなイメージを持たれる傾向があり、それにより遺伝子組換え作物を代表とする様々な遺伝学技術は世間一般に浸透しがたい現状がある。しかしながら、その安全性や魅力について正確性と理解のしやすさを重視した言葉で話しても聞いてもらえないことがあるというのが私のこれまでのサイエンスコミュニケーションにおける課題であった。
今回の企画者としての目的は遺伝学そのものに対する興味を煽る手法を得る、そして磨くことにある。まずは遺伝学に対して「おもしろい」というポジティブなイメージを持って接してもらうことで、この課題をクリアするひとつの手段を得られるのではないかと期待している。

・ショウジョウバエを何故使用するのか、その背景知識や自身のテーマを含めた研究の意義について理解を深める・コミュニケーションの能力の向上(小口)
 実験の研究対象にしている「キイロショウジョウバエ」について、ハエを用いた研究手法、又はハエを研究に用いることの利点や面白さを伝えることにより、自身の研究を振り返り、背景知識や研究の意義についての理解を深めることを目的とする。今回のイベントでは、ショウジョウバエについての展示を行うため、自身の研究テーマ、ショウジョウバエの生態及びモデル生物について必然的に調べることになる。したがって、研究テーマやその背景知識への理解が深まることが予想される。
 さらに、また、モデル生物及びショウジョウバエについて、対象者の知見を深める機会を与え、遺伝学の学習意欲を促すことを通して、論理的かつ端的に内容を伝える自身のプレゼンテーション能力の向上を目的とする。遺伝学やショウジョウバエについて精通していない一般の方向けに説明をするので、端的に、かつ専門用語をあまり用いずに伝える必要がある。プレゼンテーションの練習を行うことにより、主張したい内容の要約技術及びコミュニケーション能力の向上が見込める。また、話しかける方法や目線などを工夫して、興味がある人でもない人でも惹きつけられるようにする。

・内容理解が出来ない年齢層でも楽しめるコンテンツの作成(田)
学園祭という事もあり、来場者の中には年齢層がかなり下の子供たちがいる。様々な種類のハエを見せたり、面白さがなんとなく伝わる子もいれば、それも分からない子もいる。そういう子たちに、少しでも視覚的楽しさと、観察への自然な誘導ができるように、装飾の一環としてハエ変異体福笑いを作成して、子供たちに楽しんでもらえるようにする。


・説明能力の向上(実施者全員)
 展示の当日は、全員が説明要員として仕事をこなす必要がある。オープンラボに関する過去の報告書を見ても、来場者のほとんどは専門知識のない一般の方と予想できる。専門知識を使うことなく、ショウジョウバエや遺伝学のことを説明し、一般の方にもわかりやすい説明能力を身につける。


<方法>
目的を達成するために、学祭期間中のオープンラボとテクノスクエアの場を活用し、以下の4部門の展示を行った。
@キイロショウジョウバエの変異体を探す展示(部門担当:中野、安田)
Ashi変異体の展示(部門担当:桑原)
Bショウジョウバエのエサと研究上の利点に関する展示(部門担当:小口、外山)
Cポスター展示・装飾(部門担当:船津、田)


<活動内容/企画としての特徴>
4部門の展示の内容について、ひとつずつ以下で説明する。

@キイロショウジョウバエの変異体を探す展示(部門担当:中野、安田)
 1つの遺伝子の変異によって、キイロショウジョウバエの体が変化してしまうことを示し、生物体を形作るうえでの遺伝子の力強さを体感してもらう。この目的のためにwhite (白眼), vermilion (鮮赤色眼), yellow (薄黄色の体), ebony (黒い体), Curly (曲がった翅), Bar (棒状の眼), の6種類の変異体を展示した。まず24 穴プレートを用意し、4穴×6区画(6変異体用)に分けた。4穴のうちランダムな3穴に野生型であるCSのハエを入れ、残った1穴に各変異体を入れることで、1プレート内で6変異体分の区画を作った。用意したプレートを来場者に顕微鏡下で観察してもらい、来場者自身でCSの中に紛れた変異体を探してもらうことで、CSとは見た目の異なる変異体の特徴を自身で掴んでもらう。例年行われてきた、ただ単純に変異体のみを見せる方法ではなく、上記の方法を採用することによって、より体感的・経験的にキイロショウジョウバエの変異を理解してもらえると考えた。“変異”についてよりスムーズに理解してもらうことで、本題となる「今しがたご覧いただいた変異体には遺伝子という生物の体の設計図がおかしくなっている」という説明もよりスムーズに行えることも期待した。

Ashi変異体の展示(部門担当:桑原)
 遺伝学的研究の面白さを体験的に感じてもらうこと目的に、shibire変異体(人肌程度の温度に晒されると神経活動が阻害されてしまい、全身の動きが痺れる変異体)の展示を行った。来場者自身の手でshibire変異体の入ったバイアルを温めてもらい、実際に痺れる場面を目撃してもらうことで、遺伝子の変異によってハエを操作できることを体験してもらう。当日は熱伝導性を考慮してガラスのバイアルを用意し、また温度上昇によってしびれたハエを回復させるための氷や、気温への配慮(25度以上の気温では手を使わずともしびれてしまう)のための温度計を常備して展示を行った。

Bショウジョウバエのエサと研究上の利点に関する展示(部門担当:小口、外山)
 ショウジョウバエを実際に研究するにあたり、なにかしらのエサや実際に世話をすることが必要になる。私たちが用いているエサの実物や、作り方を見せることで、ショウジョウバエ研究のイメージを具体的に持ってもらうこと目的として展示を行った。また、ショウジョウバエの世代時間は他の非モデル生物では考えられないほどに短いが、そうした研究上の利点も併せて説明する。具体的には、「ショウジョウバエの好きな食べ物・嫌いな食べ物」「ショウジョウバエが大人になるまでの時間」「ショウジョウバエの研究でできること」をクイズ形式にして説明した。また、実際に使用しているエサの原材料やエサづくりの道具、エサを入れる種々の容器の現物を借りてきての展示も行った。

Cポスター展示(部門担当:船津、田)
 我々の研究室には3人の先生が所属しているが、それぞれの先生と所属学生が行っている研究を知ってもらうことを目的に、研究ポスターの展示を行った。部門担当者による選定のもと、当日は坂井先生グループ、朝野先生グループ、武尾先生グループのそれぞれを代表して倉田さん、小口君、高岸さんの研究ポスターを掲示した。
  
 また、展示の部門というよりも展示部屋内の装飾の一環として、ハエの変異体のイラストを用いた福笑いの作成と設置を行った。各種の変異体の体のパーツのイラスト(ebonyの黒い体、whiteの白眼など)をマグネット貼りにし、各パーツを部屋内のホワイトボード上で自由に組み合わせて、好みのハエを作成できるもの用意した。特に未就学児や小学生をターゲットとし、この福笑いをきっかけに、「今、自由に作ってもらったような形や色がおかしなハエがあそこ(変異体の展示場所)にいるから」と実際のハエにも興味を持ってもらえることを期待した。(担当:田、船津)


<具体的成果>
●対象者視点

・学祭期間中のうちの一日のみの展示であったが、計252名の来場者数となった。

・来場者に対して、大判の紙にシールを張りつけて、「一番おもしろかったコーナー」をたずねるアンケートを行い、下図の結果を得た。(進化遺伝学研究室と同部屋で展示を行ったため、アンケート結果には進化遺伝が主催したコーナーも含まれている。細胞遺伝のコーナーは「変異体の観察」「エサの紹介」「ハエ福笑い」「ポスター」である。ただし「変異体の観察」は変異体の観察とshiの観察の両方を含んでおり、また「ポスター」は細胞遺伝と進化遺伝のポスターのコーナーを合わせている)。




・アンケート結果は、252名のうち173名(69%)の来場者から得たものであり、十分に多くの来場者の意見を反映することができたと考えている。これはシールを張り付けるという簡便な方式を採用したこと、また進化遺伝側がアンケートへの投票を呼び掛ける人員を割いてくれたおかげであると考えており、アンケートの一つの手段として来年度以降にも引き継げて行けたらと考えている。

・アンケートの結果、全コーナーのうち自分たち細胞遺伝の「変異体のコーナー」が最も多くの得票率を得ることが出来た(173票中の59票(34%))。見た目で分かる変異体を用意したこと、展示者の解説よりも来場者自身の観察(体験的学習)を重視したことが功を奏した可能性がある。ただし、進化遺伝側の「系統樹クイズ」や「ハエの紹介」は(キイロショウジョウバエではないものの)同じくショウジョウバエを紹介しているため、この2コーナーと混同されて票が流れ込んでいる可能性もある。来年度以降はアンケートの表記の仕方にこだわってもいいかもしれない。

・アンケート結果の「変異体のコーナー」の結果をすなおに受け取れば、「キイロショウジョウバエと本種を用いた遺伝学の面白さを伝える」とした対象者への目的は十分に達成されたと捉えることができる。


●企画者視点(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)
(平石)
 自分が思ったクオリティ・自分が想像していた方向に仕事が進まなくなることを嫌い、私は他人に仕事を任せることを避けてきた。しかし、そうした考え方のもとでは、グループワークを遂行する能力を得ることができないとも感じていた。そこで今回の企画中では4部門の統括を担うなかで、あくまで統括者である身として各部門担当者の意向を尊重し、干渉にならないようにサポートにまわることを意識した。また適材適所に人員を配置することを意識した(例えばエサづくりへの理解が最も深い、ラボ内でのエサづくりの係りである小口君・外山さんを「エサの紹介」部門にしたり、変異体の維持のために定期的な世話が必要になる「変異体を探す」部門に、マメな仕事を欠かさない中野さん・安田さんを配置するなどした)。こうした意識のおかげで各自が十分に、かつ無理なく能力を発揮できたと思っており、結果としてクイズ形式でのエサの紹介や、ハエの福笑いなど、例年にはなかった展示をゼロから作ることが出来た。グループワークを先導・遂行するために、今後もこうした意識を持ち続けていきたい。
 準備段階から当日までに、細胞遺伝の共同実習者や同部屋開催となる進化遺伝側の担当者、展示環境の提供もととなるオープンラボの担当教員やテクノスクエアの担当者とは、対面・メール等のオンラインツールを合わせて綿密に連絡を取ってきた(メールだけでも110件以上)。こうした連絡を通じて、十分に相手方の意見を尊重したうえで自身の意見を通す能力を身に着けることが出来たと思っている。その結果として希望通りの展示部屋(ある程度の広さがあり、机やイスが固定されておらず自由に動かせる部屋)を確保することに成功し、また先述のゼロから作った数々の展示もおよそ思った通りの方向で完成させることが出来た。また当日も近隣の子供たちからご高齢の方、本ラボに興味を持つ高校生など、多種多様な来場者への展示説明を行ったことで、説明相手に応じて説明する能力を向上させることが出来た。

(中野)
 「キイロショウジョウバエの変異体を探す展示」にて説明をする際、来場者の年齢に合わせて言葉選びに気をつけるようにした。そのため、初めに学年を聞くようにした。小学生は知識を伝えずに、変異体を自分一人で見つけたという達成感を味わってもらうために、見つけられそうになければ、ヒントを与え、自力で見つけられるようにした。高校生には、基本的な生物学用語を使用して、今学校で学習していることが大学にも活かされていることを気付かせた。用語を使う際は、気軽に質問しやすいように「遺伝子ってわかる?」と確認を取るようにした。相手の反応に合わせて詳しく説明したり、興味を持たせられるように身近な例を出したりと意識しながら説明できたので、瞬時に相手の理解度に合わせて説明する力が養えた。また「ショウジョウバエのエサと研究上の利点に関する展示」を担当した際クイズ形式なので、盛り上がりを重視して説明した。相手が正解したときは拍手をしたり、不正解のときは「実は○○なんです!意外ですよね」というように驚いてもらうようテンションを上げたりした。家族連れのときでも積極的にお子さんに答えてもらうように指名して答えてもらうようにした。司会進行能力も身につけられたと考える。

(安田)
 実施内容(対象者への対応)はある程度はできたように思う。柔軟な表現の1つとして、話のとっつきやすさや分かりやすさを優先するようにした。具体的には、基本的に展示物に書かれていること以上のことは細かく話さず、聞かれたことに対しても二言三言程度に手短に答える形を取った。説明が不十分や中途半端になる可能性もあったが、長々と話して伝わらなかったり飽きてしまうよりはいい方法であったように思う。またコミュニケーションは普段接する機会がない相手、特に年配の方を相手を中心に行った。ハエということで始めは嫌悪感を示していた方も、会話や実物に触れて楽しんでもらえた様子であったから、この点については当初の目的は果たせたと感じている。

(桑原)
今回の企画者視点での成果は2つある。
1つは視覚的な変化の重要性を感じられたことだ。
企画段階で想定していた通りだが、やはり視覚的な変化が与えるインパクトは大きいと体感できた。体験者の多くは瓶を揺らすとぽとぽとと落ちていくハエに感嘆の声をあげてくれた。更に、握っている時間の大小によって多少ハエのシビレ方に差があったのだが、やはりよくシビレている方が、視覚的にわかりやすいためか、体験者の驚きが大きかったように思う。更に、特に驚きの大きかった体験者には「どういう仕組みなんですか?」や「今このハエはどういう状態なの?」という疑問を持っていただけた。これからも視覚的インパクトを重視した企画について考えたい。
2つ目は体験の時間もまた重要な要素であると感じられたことだ。
来場者には時間の余裕がなく思っている人も少なくなかったようで、体験していかないかと声をかけても忙しいからと断られる場面が複数あった。こうした企画を行う場面では、今回の学祭のように短い時間の中で多様かつ多数の催しが行われていることは多々あるだろう。
今回の企画は体験に際して(主にガラスビンを温めるのに)2-3分の時間を要した。そしてこれはこのような多数の催しが行われている中では少々長すぎる時間であるようだ。体験の速度もまた重要な要素であると感じられたことは今後の企画を考える上で大きい収穫となるだろう。

(小口)
 「ショウジョウバエのエサと研究上の利点に関する展示」に関して展示を行ったが、そこではショウジョウバエのエサに関してのミニクイズを作成した。その際に、このハエの嗜好が何であるのか、何日で次世代が出てくるのか、ショウジョウバエで遺伝子を利用して既にできることは何かについて再確認することができた。また、「顕微鏡での変異体の観察」では、ハエの質的な突然変異について、ポスター展示では自身の研究について今一度振り返ることができた。今回の企画で確認できた知識、研究背景、内容にちうては、今後の学会発表だけでなく、修論発表、またはオープンラボにて説明する際に役立つだろう。そういうわけで、今回知識理解を深められたのは大きな収穫だったと言える。
 その他、各展示を説明する際には、相手がどの程度の知識を有していて、理解できそうかを常に説明の冒頭でヒアリングして確認することを意識して説明にあたった。これを行うことにより、円滑にお客さんとコミュニケーションを取ることができ、端的に伝えることができた。特に、エサの展示や変異体観察のコーナーでは、相手の日常生活には縁のない器具や変異体というものを、専門用語を使用せずに、共通している部分(目や手足などのパーツ、台所や鍋等)を皮切りに理解しやすいワードから自分が説明したいものに結び付けられたので、相手の心理的な負担を減らしながら最短ルートで説明を終えることができた。したがって、要約能力やプレゼン能力は向上したと感じる。

(田)
ポスター準備、福笑いでの誘導、観察説明を担当した。福笑いでは、興味を持った子供達に対して、好きなハエを作るように助言し、好きなように福笑いを楽しませた。一通り完成したら、親に対して観察ブースへ実際の個体が見えるよと誘導し、説明を受けさせたお陰で「自分の作った生き物が実際存在している!おもしろい!」と楽しませられた。この一連の流れを形成したおかげでメインターゲットでない子たちも飽きないような展示の実現に近づかせることが出来た。
また、様々な年齢層に対応した説明もだいぶ出来るようになれたと思う。母親と高校生、別研究室の同級生、子供、異なる知識背景を持つ人たちに対して、同じコンテンツでもどこまで同じように話、どこを噛み砕いて説明するべきなのかを考えながら話せるようになれた。

(船津)
田さんと一緒にポスター準備、福笑いでの誘導、観察説明を担当した。福笑いでは、小さな子供に対しては、いろんな表現型を持つハエの作成を楽しんでもらった。親御さんに対しては、「どのような手順で遺伝子に変異を持ったハエを作成するのか」などを一般化して説明した。
変異体の観察については、説明をしている相手が理解できているかどうかを確認しながら説明した。「どうしてハエの表現型が違うのか」「変異が起きた遺伝子はどのような働きをしているものなのか」などを一般の方にもわかりやすく説明することを心掛けた。高校生も多かったが、生物学を学んでいる人には、遺伝学に興味を持ってもらえるよう、わかりやすく詳細に説明することを意識した。

(外山)
小口さんと一緒にショウジョウバエのエサと研究上の利点に関する展示を行った。餌の観点からどのようにすれば参加者に楽しんでもらえるのかを、参加者視点で考えクイズ形式を採用した。その結果、ショウジョウバエのエサの展示にも関わらず多くの人に興味を持ってもらうことができた。また説明の際にも、相手の知識量に合わせ、丁寧に説明することができた。
また、同じブースを共有した進化遺伝学研究室とも連携を取り、細胞遺伝学研究室だけでなく、ショウジョウバエの研究で用いられている器具を紹介した。この過程を通して、周囲を巻き込み、連携する力が身についた。

<感想/課題>
(平石)
 私は小学生のころから通っていた塾の影響で、放任主義的な教育が身に沁みついているのだが、少なくとも私自身が受けてきた教育の経験では、放任は最も高いパフォーマンスを発揮できることや最も成長できることを感じてきた。これは当人のやる気や考え方に頼る(というか頼らざるを得ない)方法だからだと考えているのだが、私自身も他者にものを教える際や、リーダーシップを執る際も、当人のやる気や考え方を重視し続けてきた。本企画中で統括を行うなかでも、各部門の人たちには一から十まで指示することなく、各自の動きに同様の意識で接してきた。放任体制において指示をしすぎないということは重要であると思うが、各自の作業を完全に任せっきりにしていいものでもない。私はこの部分を勘違いしており、また今回の企画を通して学ぶことが出来た。企画の準備を始めた当初、私は各部門担当者に大まかな指示を出した後、各自に完全に任せた状態で準備を進めてしまっていた。そのため、各部門の進捗を統括たる私が把握できていないという状況がしばしば起こってしまい、部門ごとを連携や同部屋開催の進化遺伝側との連携に問題を生じさせてしまった。(幸いにして予定より遅れている部門に気づけなかったという問題はなかったが)。今回の経験を通じ、放任体制で進める際に各自の進捗を把握しておくことの重要性を学んだ。

(中野)
 今回企画を進める中で、計画性に課題があると気づいた。新鮮なハエを見せようとハエの準備を当日に行った。しかし予想より遥かに時間がかかってしまい、開始時間に間に合わなかった。事前に準備にどのくらいかかるか計算し、余裕を持って準備に取り掛かるべきであった。またその予測でオープンラボ前日に準備をする判断もできた可能性があり、今後はトラブルを考慮した計画立てを心がけたい。
 感想として「キイロショウジョウバエの変異体を探す展示」展示方法を工夫できた。準備の段階でハエを穴プレートに入れるかかシャーレに入れるかで迷っていたが、ハエの探しやすさと、見つけたときに来場者が指し示しやすさを考慮して前者を使うことにした。また、穴の数も各穴ごとに変異体を探し出す際に、見つけやすさと、飽きさせないようにするために24穴に決定した。当日実際に使ってみて、不便なく使用できたため、この方法を来年以降も引き継ぎたいと思う。

(安田)
 企画自体は共同企画者と連携してスムーズに行えた。しかし当日では実施内容の準備に時間がかかり展示が予定より遅れてしまった。やること自体は多くなかったが、それゆえに予定の見積もりが甘かったように思う。今後は、実施内容の確認だけでなく、実際にやった時にどんなことが予想されるか、何かトラブルがあった時にはどのように対応するかまで一歩先を見た計画を立てるようにする。
成果ではある程度の来賓の方と会話ができた一方で、子連れのお客様などは興味が全くないメンバーを含めた状態で入ってくることがよくあり、そういったお客様には誘導も気が引けてしまいうまく応対ができなかった。誰にでも興味を持ってもらえるような一言や物、雰囲気を用意する必要があると強く感じた。これらの内容を踏まえて今後は自身の課題に対しても他からの協力を受けつつ取り組んでいきたい。

(桑原)
遺伝学的技術の素晴らしさを知ってもらい利用してもらうためにはまず遺伝学にポジティブなイメージで興味をもってもらうことが重要なのではないかと考えて今回の企画を行った。結果として視覚的変化のインパクトの重要性を体感でき、また体験の時間も重要であるという新たな視点を得られた。これらの成果をもとによりよいサイエンスコミュニケーションを目指して精進したい。

(小口)
 自身が担当した展示については、事前に準備を済ませ、更には当日の配置も完璧に行うことができた。計画性の高さは今回の誇れる点だと感じた。今後も継続していきたい。
 その一方で、積極性が足りないと感じる場面が多々あった。ポスター展示でポスターを見ていただいているお客さんに対して、私自身のポスターを一瞥して帰られる方が多く、説明する隙がないな、説明しなくてもいいのかなと考えてしまっていた。この積極性の無さは明らかに課題である。あまり興味が無い方にも説明する心意気を持って相手と接し、飽きさせないようにするために端的にポスター内容を伝え、最終的には少しでも理解して帰ってもらう。今回は、興味を持って話を聞きに来てくれた方に向けたプレゼンは上手くいったと思うので、もう一段階踏み込んだプレゼン能力の向上及び積極性の向上を次回課題としたい。

(田)
福笑いの制作は、思った以上にやる事が多くて準備日前日までばたばたしていた。実際飾りの一つにでもなれたらなと思っていたが、思った以上に子供たちがわいわい遊んでいたので良かったと思う。
観察の説明時も、同じ生命の子でも研究室が違うだけで自分達の当たり前が相手の未知の世界であることを再認識できた。ハエにまつわる面白い話(ハエも失恋するとか)を集めてキャッチ―に話して興味を惹かせてハエの魅力を伝えられてとても嬉しかった。

(船津)
計画性や連携に課題があると感じた。
福笑い、ポスター準備ともに計画することが遅れ、前日のぎりぎりまで準備をすることになってしまった。ポスターについては、日本語で準備することができず、英語のポスターを掲示することになってしまった。一般の人にはわかりずらい展示になってしまったと思う。
連携については、係内・メンバー間ともに、決定事項や準備状況の共有が甘かったと感じる。周りの準備状況を知ることで計画性をもっと意識できたと感じる。決定事項を周知することが遅れてしまったため、展示当日に発表手順を説明するような形になってしまった。
次回からは、今回の反省を活かして計画性や情報共有を意識して行動したい。

(外山)
クイズ形式の餌の紹介は想像以上に好評で、参加者に興味を持っていただけたことが非常に嬉しかった。来年も、この形式を後輩に伝えていければと思う。
課題としては、臨機応変な対応にあると考える。自分のブースが空いており、変異体の観察のブースが込み合っていることがあった。お客さんをただ待たせるのではなく、自分のブースや、ポスターなどを通して、積極的にお客さんが上手く回るようにするべきであったと考えている。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
TOKYO METROPOLITAN UNIVERSITY