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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 2023年度細胞遺伝学研究室オープンラボ(@8月オープンキャンパス)
実 施 者: 平石拓海, 安田朱里, 竹田真優
実施場所: 8号館4階エレベーターホール
実 施 日: 2023年 8月 12日
対  象: オープンラボ来場者(計247名)

<概要/目的>
対象者視点
●遺伝子・遺伝学の面白さを知ることができる
一般の方にとって「コバエ」は流しの三角コーナーに湧いている嫌悪の対象でしかないが、そのコバエの一種であるショウジョウバエ(正式名称でキイロショウジョウバエ)が遺伝学の基礎から応用までの幅広い分野で役に立っていることはあまり知られていない。家屋でよく見られているはずの本種が、実は有用であると周知させることができれば、一般の方々の知的好奇心を大きく刺激することができるのではないかと考えられる。
また、遺伝学の面白さも、まだまだ世の中に伝わっていないだろう。例えば遺伝学で使われるDNAや遺伝子といった用語は、「DNA親子判定」や「遺伝子組み換え作物」などの単語でばかり知られ、ネガティブな印象を強く持たれている。そのため、生物体を構成する遺伝子に迫る学問である遺伝学の面白さは、まだまだ世の中に伝わっていない。しかし、例えばHox遺伝子一つを変えるだけでも体中に複眼ができるなど、体の状態を劇的に変化させうるという、遺伝子/遺伝学の力強さを伝えることで来場者の視野を広げたい。
本研究室では、これまでキイロショウジョウバエを用いた遺伝学的研究を行ってきたため、本種や遺伝学の魅力を伝えるための有力な学生や適切な資料が揃っている。本企画では、学術的な広報が可能となるオープンラボの場を活用し、本研究室の強みを生かして、本大学の受験を考えている中高生等へキイロショウジョウバエと本種を用いた遺伝学の面白さを伝える。
●受験等に向けた情報を知ることができる
上記に加え、今までの先輩等から、多くの来場者からは、受験だけでなく大学卒業後の進路等についても気になっていることを伺っている。こうしたニーズに合わせ、今年度は受験生用の相談窓口も設置することで、遺伝学以外にも必要な情報を提供する。

企画者視点
●内外の関係者とのコミュニケーションを図る能力(平石)
今回の展示を行うにあたり、オープンラボの場を活用することになる。そうした中、私(平石)は統括役として各種の連絡のいわばハブ的な役割も担う。ラボの外部いる人、例えば他ラボの人とは展示場所が被らないようにする交渉等が求められるうえ、ラボ内の人とは各種の連絡や展示制作の準備の交渉が求められる。こうした状況を利用して、多くの人との連携に不可欠となる、コミュニケーション能力(自分の意図を正確に伝え、また通す能力、人の意見を聞く能力など)を向上させる。

●外部のあらゆる人を対象に同じ程度の知識、経験を与えること。(安田)
これまでの展示企画では、ヒトに合わせたコミュニケーションを優先させ、それに伴い説明も変えるように心がけてきた。しかし説明の内容が変わってしまえば伝えられる内容も変わり、結果伝えたいことが伝わり切らないことが予想される。そこで、正確性を緩め専門的な話を取り除いた「遺伝学への興味の入り口」となるような説明に変更、全ての人に同様の内容を提供することを目標にした。

●「わかりやすく伝える」ための表現力の向上(竹田)
今まで経験してきたポスター発表は、対象者が専門的な知識を有した方々であったため、今回のように一般の方を対象にした説明というのはわたしにとっても初めての経験である。そのため、分かりやすく説明する能力と、説明に使うポスターについても見やすさ・わかりやすさを意識した改訂をするための表現力について、このオープンラボを通して向上させることを目標とした。

●説明能力の向上(企画者全員)
展示の当日は、自身も説明要員として仕事をこなす必要がある。オープンラボに関する過去の報告書を見ても、来場者のほとんどは専門知識のない一般の方と予想できる。専門知識を使うことなく、ショウジョウバエや遺伝学のことを説明し、一般の方にもわかりやすい説明能力を身につける。


<方法>
目的を達成するために、学祭期間中のオープンラボとテクノスクエアの場を活用し、以下の3つを行った。
@        キイロショウジョウバエの変異体を探す展示
A        細胞遺伝学研究室の研究を紹介するポスター展示
B        受験・進路等に関する相談コーナー

<活動内容/企画としての特徴>
上記@, A, Bの内容について、ひとつずつ以下で説明する。
@ キイロショウジョウバエの変異体を探す展示
 1つの遺伝子の変異によって、キイロショウジョウバエの体が変化してしまうことを示し、生物体を形作るうえでの遺伝子の力強さを体感してもらう。この目的のためにwhite (白眼), yellow (薄黄色の体), ebony (黒い体), apterous (無翅)の4種類の変異体を展示した。まず24 穴プレートを用意し、4穴×4区画(4変異体用)に分けた。1区画の4穴のうちランダムな3穴に野生型であるCSのハエを入れ、残った1穴に各変異体を入れることで、1プレート内で4変異体分の区画を作った(4穴×2区画分の空き区画は使わなかった)。用意したプレートを来場者に顕微鏡下で観察してもらい、来場者自身でCSの中に紛れた変異体を探してもらうことで、CSとは見た目の異なる変異体の特徴を自身で掴んでもらった。例年行われてきた、ただ単純に変異体のみを見せる方法ではなく、上記の方法を採用することによって、より体感的・経験的にキイロショウジョウバエの変異を理解してもらえると考えた。“変異体”について体感的・経験的に理解してもらうことで、本題となる「今しがたご覧いただいた変異体には遺伝子という生物の体の設計図がおかしくなっている」という説明もよりスムーズに行えることも期待した。
A 細胞遺伝学研究室の研究を紹介するポスター展示
 我々の研究室には3人の先生の指導のもと、20人の学生が所属しているが、各学生が行っている研究を知ってもらうことを目的に、研究ポスターの作製・展示を行った。20人の研究を全て細かく紹介することは発表者・聴衆双方の負担になると判断し、まず20人の学生を半分の数となる10個のグループに区分した(研究内容が近い人どうしを同じグループとした)。10グループについて、各研究の目的や概要を紹介するミニポスターを作製してもらい、それを1枚のA0ポスターに総合することで、ポスターの完成版とした。
B 受験・進路等に関する相談コーナー
 オープンラボには受験や進路に悩みを抱える受験生やその保護者も多く来場することを聞いている。彼らにとって、ショウジョウバエや遺伝学以外に必要な情報を届けるため、相談コーナーを設置した。本研究室の修士2年の学生は人数が十分に多いことで、一般入試を経験した学生、指定校推薦の学生、ゼミナール入試の学生のように、一通りの受験形態をカバーしている。また、修士2年の学生は学部卒で就職した同期の情報を知っており、また自身が最近まで就活していたなどの理由で就活に関する情報にも強い。加えて、博士課程に進学予定の学生もいるため、大学卒業後の進路について、手厚い相談が可能であると考えた。修士2年の学生の中から受験形態や修士卒業後の進路等を考慮した計4人(午前・午後2人ずつ)選択・配置し、あらゆる相談に対応した。

<具体的成果>
●対象者視点
・学祭期間中のうちの一日のみの展示であったが、計247名の来場者数となった。
・各コーナーに来た人数は以下の通りだった。
@ キイロショウジョウバエの変異体を探す展示       97人
A 細胞遺伝学研究室の研究を紹介するポスター展示 102人
B 受験・進路等に関する相談コーナー        21人

・「@キイロショウジョウバエの変異体を探す展示」では、前回のオープンラボ時での反省点であった「見せる変異体の数が多い」という点を考慮して、変異体の数を6から4に減らした。その結果、スムーズに説明することができ、多くの方に変異体の面白さを伝えることができた。また、前回まではなかった変異体であるapterous (無翅)は、来場者から感嘆の声を聞くことが特に多かった。他の変異体であるwhite (白眼), yellow (薄黄色の体), ebony (黒い体)は、身近な動物であるイヌ・ネコでも眼の色や毛の色が変化し得るために目新しさがないかもしれないが、apterous (無翅)は体の一部が欠失するためにインパクトがあり、遺伝子の力強さを伝えるうえで役に立ったと考えている。
・「A細胞遺伝学研究室の研究を紹介するポスター展示」では、前回の設置場所がエレベーター付近であったことによる来場者の混雑を反省点として、今回は設置場所をエレベーターから来た来場者の目に留まりやすく、それでいて変異体観察や相談コーナーへも行きやすいような場所にした。その結果、ポスターの説明を聞いてから変異体観察に行くという来場者の流れができ、より遺伝学におけるショウジョウバエの魅力を伝えられた。また、ポスターに使用した研究内容紹介のスライドについて、文字数の削減や、専門用語を簡単な言葉に書き換えるなど、言葉で説明する部分以外でもわかりやすくなるよう配慮し、実際の説明では伝わりやすい具体例などを出すことで、遺伝学への興味・関心をひきだす一助になったと考えられる。
・「B受験・進路等に関する相談コーナー」は今回から新たに設置されたコーナーであるが、想定以上に反響があった。実際に相談のためのイスに座った人は21人であるが、一組当たり15分以上、長ければ30分ほども話すこともあり、11時から16時までの実施時間中の大半は相談に乗っている状態になった。従って、ショウジョウバエや遺伝学以外の情報について、できる限りのものを提供できたと考えている。

●企画者視点(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)
 (平石)
 前回のオープンラボ(22年11月時)に引き続き、私は全体の統括役を担った。前回と同様に、あくまで統括者として他の共同企画者や同ラボの人の意向を尊重し、干渉にならないようにサポートにまわることを意識した。また適材適所に人員を配置することを意識した(例えば経験値が比較的多い修士2年の学生を相談コーナーに配置し、また場慣れしていないB4については説明が比較的容易なショウジョウバエ変異体のコーナーに配置した)。こうした意識のおかげで各自が十分に、かつ無理なく能力を発揮できたと思っており、結果として、つつがなく企画を終えることができた。グループワークを先導・遂行するために、今後もこうした意識を持ち続けていきたい。
 準備段階から当日までに、細胞遺伝の共同実習者やオープンラボの担当教員や近隣研究室の学生とは、対面・メール等のオンラインツールを合わせて綿密に連絡を取ってきた。こうした連絡を通じて、十分に相手方の意見を尊重したうえで自身の意見を通す能力を身に着けることが出来たと思っている。その結果として希望通りの展示場所(4階エレベーターホール:顕微鏡を持ち運ぶ関係で研究室から近い場所が必要となった)を確保することに成功した。また当日も本ラボに興味を持つ高校生やその保護者などへの説明を行ったことで、説明相手に応じて説明する能力を向上させることが出来た。

(安田―@を担当)
幸い訪れた方のほとんどが高校生以上だったため、多くの人に説明が通り円滑に運営を行えた。また学生だけでなく、来訪者の親御さんもターゲットに手すきの時間には積極的に声をかけるようにしてより多くの人への説明も挑戦した。さらに自分の担当以外のポスターや相談室への誘導も行い、聞いたり触ったりを通した「興味の入り口」の役割としてはうまく動けたように思う。

(竹田―Aを担当)
今回のオープンラボでは、事前準備として、研究室のメンバーから集めた研究内容紹介のスライドについて、文字数の削減や分かりやすい表現への言いかえなどを行い、当日はポスターの前に控えて、来場者に対し研究内容の紹介やショウジョウバエを使うことのメリットなどの説明をした。初めの方は私も緊張して具体的な例をうまく出せず、また表情も硬くなってしまっていたが、だんだんと緊張もほぐれ最後の方は1グループの説明が終わったらすぐに別のグループへの説明が始まる、といった具合にほとんど休まず話し続けることができた。遺伝学に興味のある高校生やその保護者の方は、研究内容について質問もしてくれたことで、より表現力・説明力の向上につながったのではないかと考えている。できるだけ身近な具体例を出すことで、来場者の方からも笑顔を引き出すことができ、遺伝学に興味・関心を持てるきっかけになれたのではないかと感じている。

<感想/課題>
(平石)
今回のオープンラボにおいて、当日は相談コーナーの一人として参加したが、相談に乗る側として良い経験ができたと思っている。相談コーナーで相手にする高校生は初対面であり、かつ話す時間は多くても30分程度しかない。加えて、話す内容もおよそ決まり切っている。具体的には、まず「高校何年生?」と聞いてアイスブレイクし、続いて「理系や生物学に興味はあるか?」「生物学だとしたらどのような分野に興味があるか?」「将来は学部4年で就職したいか、それとも修士課程中や博士課程に行きたいか?」など、ほぼ決まった質問を投げかけて相談に乗った。こうした、ほぼ同じことを話しているのにも関わらず、各高校生には、「進路等についての自身の考えを明確に持っているか」、「自分の興味ある分野を明確にしているか」、「自信があるか」、「目を見て話ができるか」といった項目に如実な差異があることを実感した。以前から、今回のように多くの初対面の人から話を聞くという機会があり(例:サークルの新歓など)、おぼろげに感じてきたことだが、こういった経験は、いわば面接官を体験しているようなものであり、短い時間・決まった質問で相手の人間性等をおよそ評価できることを実感した。これまで、受験等で受けた面接は時間が短く、またどの学生も同じような質問をされていたことから、面接に意味があるのかを疑問視していた節があるが、今回の経験(や以前からの経験)を通じて意味を理解することができた。現M1やB4である本研究室の学生達も、今後は就活等で面接を受けるはずであるため、今回の私が実感したことを同じように感じてもらうために、次のオープンラボ(11月の学祭時)は彼らを相談コーナーに配置することも良いかもしれないと思った。

(安田)
多くの人には楽しんでもらえたように感じた一方途中で離脱してしまう方もおり、同じ説明では全ての人の興味を引くことができないという難しさも感じた。今回は目標に向けて自分の活動を概ね固定してしまったため、その場の臨機応変に対応できなかった。今後は事前に相手の興味関心を聞いてからそれに対応した話をするなど、相手の期待に沿える工夫を組んでおきたい。

(竹田)
今回のオープンラボでは、できるだけ身近な具体例(例えば不妊治療や長期記憶を効率的に作る方法など)を交えることで、来場者から笑顔を引き出すことができ、私自身も楽しく説明することができた。今後の課題としては、初めの方で緊張によりうまく説明できなかったり、表情が硬かったりといった欠点があったため、後半でできた説明のクオリティを初回から維持できるようにしたいと思う。


ショウジョウバエの変異体を説明する様子(安田)


ポスターを説明する様子(竹田)


片付けを指示する様子(平石)
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
TOKYO METROPOLITAN UNIVERSITY