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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: みんなの理科フェスティバル2024「都立大いきもの園」
実 施 者: 川本高司
実施場所: 横須賀市自然・人文博物館
実 施 日: 2024年 1月 20日
対  象: 横須賀市自然・人文博物館で開催されたみんなの理科フェスティバルの来場者・1481人

<概要/目的>
横須賀市自然・人文博物館で開催されるイベント「みんなの理科フェスティバル」に出展した。このイベントは、個人や団体による科学的探究活動の成果を展示・発表することで所属や世代を超えた交流を行い、小中学生以降の理系キャリア教育の機会を提供することを目的としている。
来場者に楽しみながら生き物の面白さや生物多様性を感じてもらう。生態・進化生物・分類学などの生物学的な知識を提供することで、興味を持ってもらうことを目的とし企画した。企画者としての目的は、対象者に趣旨が伝わる展示の作成能力やコミュニケーション能力を向上させる事である。

<方法/企画としての特徴>

自宅や研究室で管理している生体や標本等の実物と、アイキャッチや説明のためのA2パネルや解説と共に展示を行った。自身は主にアリを中心に、ウスバカゲロウ、カマキリ、サソリモドキ、ヒメマルゴキブリなどの節足動物や、メジロの剥製を持参した。内容としては、その生物の面白い生態や分類、外来種などの生物を取り巻く問題などについて紹介した。幅広い層に楽しんでもらえるように、比較的身近な現象や面白い現象などについて触れ、解説は常用漢字のみをできるだけ使うように心がけた。アリの展示は実物が小さいため、1m程度の間隔で虫眼鏡を設置した(図1)。
他のメンバーは多足・鋏角・甲殻類、ゴキブリ、水生昆虫、鱗翅類、植物などの実物を持ち寄り、展示した(図2, 3)。
また、展示の前に立ち来場者とのコミュニケーションを行うことで、展示解説の補足や質疑応答などを行った。
ゴキブリとのふれあいコーナーも実施した(図4)。これはケースに数匹のジャイアントウッドローチやマダガスカルオオゴキブリを用意し、担当者が前に立ち来場者に触り方を指南しつつ、背中をなでたり手の上に載せてもらったりした。生体への過度なストレスを避けるため、午後のみ行った。
生き物のポストカードを作成し、これをアンケート回収と引き換えに配布した。ただし発注の遅れにより2日目からの実施となった。ポストカードは生き物の写真が載っているだけでなく、それに関する解説も付記した(図5)。これにより展示内容や解説を見返したり家族と情報を共有したりできることを期待した。

アンケート内容
・「小・中学生」「高校生」「大学生・院生」「20〜30代」「40~50代」「60代以上」から選択
Q1 本イベントの満足度をお聞かせください。1~5段階でから選択
Q2 本イベントの内容について、理解度をお聞かせください。1~5段階でから選択
Q3 特によかった・印象に残った展示があれば、お聞かせください。
Q4 今後 取り上げてほしい内容や、改善してほしいこと、本イベントへのご意見・ご感想があれば、ご自由にお書きください


図1 アリなどの展示


図2 展示風景1


図3 展示風景2


図4 ゴキブリふれあいコーナーの様子


図5 配布したポストカード(表面)

<活動内容/具体的成果>

・会場全体での来場者数
展示会場であった文化会館の入場者数は、1日目:925人、2日目:556人の計1481人であった。
会場内はある程度順路があり導線が作られてあったため、入場者のうちほとんどが本展示を通過したと思われる。

・アンケート
1日目は8枚、2日目は36枚回収した。2日目からポストカードの配布を行ったため、回収枚数の増加はこれによるものである。また、2日目の終盤1.5時間程度は協同企画者の一人が積極的なアンケート配布を行った。
結果は図6-8に示す。


図6 アンケートの回答で得られた年齢層の分布


図7 アンケートQ1の回答で得られた満足度の分布


図8 アンケートQ2の回答で得られた理解度の分布
  
Q3について一部抜粋や総括
ゴキブリのふれあいについての記述が1日目は6/8、2日目は5/36を占めた。
2日目はヤスデ、ヘラクレスオオカブト、標本、生体、ミノムシ、パネルや文章、ガ、蟻、カンスゲワタムシ、ゲンゴロウ、タガメ、コマダラウスバカゲロウ、ヤマホタルブクロ、ダンゴムシ、フジツボ、コオイムシなどについて記述された回答がそれぞれ1〜4件程度得られた。

Q4について一部抜粋や総括
Q3と比較して回答率は半分程度であった。
要望は「もっと海外の昆虫を見たい」「もっと蝶や蛾が見たい」といったものがあった。
「楽しかった」「勉強になった」「実物を見れてよかった」などの意見が得られた。

アンケートの全データ
https://www.dropbox.com/scl/fi/5y4svcomi2otraewiaenm/.xlsx?rlkey=j9wmghsjjkrycotqooav9t9la&dl=0

1日目のアンケート回答はほとんどゴキブリのふれあいについてだったが、2日目はそれに言及した数はかなり少なくなった。

保護者が代行して書いたと思われる、小学生未満の回答が1件あった。また、大学生・院生からの回答はなかった。
小・中学生からの回答が最も多く、次に高校生と40~50代からの回答が多く得られた。これは会場内で見た体感的な層とあまり大きな解離はないように感じた。
満足度や理解度はおおむね高い値が得られた。満足度が1の回答は1件あり、Q5にて「生き物の名前をもっと書いてほしい」という要望が書かれていた。

・来場者の行動・質疑・コミュニケーションについて
少なくない来場者がA2のパネルで興味を持ち、それに付随する解説を読んでいた。また、来場者は非常に積極的に展示を楽しんでいたように見えた。
会話内容から、パネルの文章はおおむね曲解や誤解をしていないように見えた。小学生程度の子どもはほとんど解説を読んでいなかったが、保護者が読んでそれを子どもに説明したりする様子が多く見られた。地衣類に隠れている虫を探す展示や、虫メガネを使ってアリを見る展示は多く割合の来場者が目に留め、参加していた。
ゴキブリのふれあいは来場者のうち体感80%程度と、非常に多くの割合で触ってもらうことができた。苦手であったり抵抗感がある場合でも、無害であることやハードルの低い触り方を実演すると触ってもらえることが多かった。

展示の前に立ち質問の対応を行った。時々質問があったためそれらへの回答や関連した話をした。来場者は感心したり非常に満足したように見えたため、丁寧に適切な返答ができたと思う。
しかし、来場者と会話する回数はそれほど多くなかった。展示の解説を作り込み、ほとんどそれのみで完結するようにしていたため、読むだけで十分な情報を得ることができたと思う。また、こちらから話しかけることも何回かあったが、話しかけると展示を見る行為を中断し、それ以降の展示を疎かにしてしまうことがあったたことも積極的な声掛けをしなかった一因である。

<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
今回の来場者は解説をしっかり読む人や、ゴキブリとのふれあいに参加する人など、全体的に積極性が高いと感じた。これは来場者の層がイベントの趣旨の通り、理系への興味が多少ともある場合が多いためだと思われる。このような層に対しては非常に効果的な展示内容を作成できたと思う。そういった興味が無い全く異なる層が対象のイベントの場合は、同様のアプローチで同様の反応や展示内容の有効性は得られないかもしれない。
アリの展示では虫メガネを設置したが、これは非常に良かったと思う。このような手に持ったり、虫を探したりする能動的な参加ができる展示は、ただ読んだり見たりするだけの展示よりスルーされづらく、より印象に残ったかもしれない。一方でそのような行動に気を取られて解説を読まなくなっている可能性はある。
アンケートについても様々な改善点があった。アンケートを配布・回収していた位置は展示の途中であったため、それ以降の展示内容についてはあまり言及されなかった印象がある。アンケートに答えることを前提として見た場合と、見終わってから答える場合、また報酬(ポストカード)がある時と無い時で得られる回答は全く異なると思われる。このようにアンケートの取り方で結果が大きく変わり、偏った意見や評価を収集してしまう可能性を考慮しておくべきだったと思った。例えば、入り口で報酬があることを伝えて紙を配布し、出口で回収ボックスを置くことで多くの割合の来場者から展示を見た直後に感じた意見を得ることができるかもしれない。さらに、想定していたよりも小学生の割合が多かったのに対し、アンケートの漢字が多く、文章も難しかったことや、年齢についての質問で小学生未満の欄を用意していなかったことも課題だった。アンケートを回答しうる可能性は全年齢を考慮し、なるべく小学生にも読みやすい内容にするべきだった。
ポストカードの発注が遅れたため1日目では配布できなかった。展示内容や必要なものなどの計画を余裕をもって立てるべきだったと思う。

©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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