TMU logo
生命科学専攻
トップ
「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 埼玉県所沢市の「トトロの森」における昆虫観察会
実 施 者: 矢崎英盛(動物生態学研究室M1)
実施場所: 公益財団法人「トトロのふるさと基金」(埼玉県所沢市)
実 施 日: 2018年 6月 2日
対  象: 幼児〜小学生、およびその両親、計80名程度

<概要/目的>
公益財団法人「トトロのふるさと基金」は、埼玉県所沢市の狭山丘陵において「トトロの森」と名付けられた里山環境の保全管理を行うトラスト団体である。筆者は2016年より、同基金の主催する散策会・自然観察会、および生態調査にボランティアスタッフとして関わってきた。今年度夏季は、筆者が昆虫の研究に携わっていることを踏まえて、「トトロの森」の昆虫について親子連れを中心とした来場者へ案内を行う企画への協力を依頼された。本報告書では、6/2(土)・9(土)の日中に行われた「昆虫博士とトトロの森探検」、および7/14(土)の夜間に行われた「トトロの森の夜の生きものと蛍の観察会」について報告する。


<方法/企画としての特徴>
自然観察会の運営にあたってしばしばボトルネックになるのは、「自然観察」という企画名を提示した時点で、それなりに自然に関心のある参加者が集まりがちであり、本来アプローチしたい自然に関心の薄い層への接触が難しいことである。「トトロの森」は、その名称やブランドイメージから、普段自然に触れる機会のない客層と接することが可能であり、また昆虫は特に親子連れに対しての訴求力が高いことから、そこを出発点に長期的な視点で自然に親しみを深めてもらうための原体験を提供するために効果的なアプローチとなりうる。
今回はトトロの森の中を歩きながら、実際を昆虫をはじめとする生物に触れる中で、講師から一方的に知識を与えるのではなく、参加者に能動的に生物との関わり方を探ってもらい、最終的には参加者の日常生活の中に自然との親しみの意識を落とし込むことを目標とした。また生態学を学ぶ学生として、昆虫を軸にその周囲の環境にまで目を広げてもらうことを目標に、親子向けの効果的な観察会運営のあり方について、A.親と子の間に序列を作らず、好奇心を親子の間で共有する空間を作ることを意識的に狙うこと、B. 大学院で研究する生態学の視点から解説を行うこと、という2点の新しい試みを行った。

<活動内容/具体的成果>
@「昆虫博士とトトロの森探検」9:00-12:00
各回20名前後の参加者を講師4人で2班に分担して、実際にトトロの森を歩きながら、特に小学生以下の子供とその両親を中心に、昆虫の観察と解説を行った。全体運営はトトロのふるさと基金の花澤氏がとりまとめた。
私は当日の講師リーダーとして、最初に、エゴノキで観察されるエゴツルクビオトシブミを題材に、昆虫を探すためには、その姿を追いかけるだけでなく、植物との関係や、食痕、あるいは日当たりや気温など、その昆虫の生息する環境に着目することが重要であることをレクチャーした。その後、森の中では参加者に自由に対象物を探してもらいながら、逐次参加者の能動的な疑問を喚起することにつとめた。例えば、キアシドクガの蛹が、食樹であるミズキからどのような距離で観察されるかを調べることで、幼虫が蛹化する際に行う「Wandering」という行動の意義について、講師の側から解説する前に、参加者に自発的に考えてもらう時間を重視した。またドウダンツツジ・ウメガサソウ・ギンリョウソウという3つのツツジ科の植物を題材に、森の樹木や菌類を含めマクロに森林生態系を俯瞰する視点を提案し、昆虫を出発点に森全体に参加者の視点が広がることを狙った。また樹液に集まる昆虫の観察を題材に、そもそも樹液が出る樹木はなぜここに生えているのか、という観点から、社会との関係についての視点を喚起することにつとめ、参加者の当事者意識を喚起し、生活の中に自然との親しみを落とし込むことを試みた。


A「トトロの森の夜の生きものと蛍の観察会」18:00-21:00
40名前後の参加者を3班に分担して、夕暮れの森の昆虫と、湿地でのヘイケボタルの飛翔を観察した。全体運営はトトロのふるさと基金の児嶋氏がとりまとめた。
私は、森の昆虫の解説担当として、雑木林に設置したライトトラップに飛来する昆虫、および、周辺の樹液で観察される昆虫類を、参加者に紹介した。いずれの場においても、私が大学院での研究対象としている蛾類の姿が多かったため、その生態について多角的に解説することができた。飛来した昆虫類にはさほど珍しいものは確認できなかったが、ごく身近にいる普通種に対して観察の視点を提供することで、参加者の日常生活の中で自然を意識してもらうことを狙う、という意味では、むしろ効果的に時間を利用することができた。



<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
事後アンケートの結果からは、参加者からは概ね好評を得られた。特に新しい試みのうちのAについては、子供の日常生活に与える親の影響の大きさから、むしろ両親に対して自然への関心を喚起することが重要であると考えられるため、比較的効果的なアプローチができたと考えている。Bについては、今後生態学を私が学ぶ中で、より効果的な方法を深めていけたらと考えている。また夜の観察会では、終了後にマムシを近隣で目撃したこともあり、安全管理について更に細やかな対応が必要であると感じた。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
TOKYO METROPOLITAN UNIVERSITY