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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 聖光学院中学校・高等学校における課外授業「聖光塾」の実施
実 施 者: 矢崎英盛(動物生態学研究室M1)
実施場所: 寺家ふるさと村(神奈川県横浜市)
実 施 日: 2018年 8月 25日
対  象: 生徒30人程度

<概要/目的>
私の母校でもある横浜市の聖光学院中学校・高等学校では、近年「探求学習」という主題で、生徒たちが自主的・能動的にテーマを深める学習活動を重視している。今回は同校の沖田教諭より依頼を受け、横浜市内で里山環境に身近に接することのできる寺家ふるさと村を会場に、実際に自然に触れる体験を行なった上で、それをどう解釈し理解を深めるか、ワークショップを通じて、私が学ぶ生態学の一端を紹介する、という課外授業を企画した。


<方法/企画としての特徴>
聖光学院は昨年度からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定された学校であるが、2年前に、同校での昆虫観察の企画を行った時は、多くの生徒たちが、理科の学習を通じての昆虫の知識は豊富であるものの、実際に昆虫を手に取ったことがあるのは数える程の人数であり、また虫網の中に昆虫を入れても、それを取り出すことができない、といった場面にしばしば出会ったことが印象的であった。今回は、単線的に正解を求める技術に習熟してきたであろう生徒たちに、比較的希薄であると思われる生徒たちの自然に対する実体験を通じて、自然のような簡単に答えの出ない複雑な対象に向き合って、それに対するアプローチ自体を考える面白さを共有することを目標とした。またその対象として私自身が現在学ぶ生態学を題材にとりあげることで、私自身にとっても初めて生態学について学校外の他者に対して話をする機会となった。
募集の結果、中学1年生約30名が参加することになり、2日間で約15人ずつを対象に授業を行った。午前と午後の2部に分け、午前中はまず実際に里山で昆虫をとらえる実体験をしてもらい、午後はその昆虫をスケッチすること、そして午前に歩いた里山に生息する生物がどんな関係を持ちながら生態系を構成しているか、生徒たちに考えてもらう室内のワークショップを通じて、午前中に得た感覚を生徒たち自身の中に落とし込んでもらうことを狙った。8/24(金)と8/25(土)の開催を予定していたが、台風の影響で8/25(土)と8/26(日)の実施となった。


<活動内容/具体的成果>
午前の昆虫採集では、40cm径の捕虫網と虫かご、およびチョウとトンボの採集用に三角紙を配布し、虫網の使用法の指導などを行いながら、9:00-11:30まで、野外での昆虫採集を行なった。谷戸に作られた水田を中心とする寺家ふるさと村の環境ではトンボ類やバッタ類が豊富であり、最終的に全ての生徒が自らの網で昆虫を捕らえ、網から取り出して飼育ケースに入れる作業を体験できた。採集の際は、すぐに名前を教えて解説するのではなく、まず目の前にある実物を観察することを意識させた。なお両日とも35℃を超える猛暑のため、予定を早めに切り上げて、ビジターセンターに戻った。
午後(12:30-15:30)は、ビジターセンターの講習室にて、透明のプラスチックバッグの中に昆虫を入れて、色鉛筆と画用紙を用いて観察・スケッチを行い、終了後にそれぞれのスケッチ、および気づいた点・疑問点を発表し、ディスカッションを行なった。その後「ティンバーゲンの4つのなぜ」を紹介しながら、それぞれ生徒の抱いた生物への疑問を深めるためには多様なアプローチがありうること、それが生物学の多様な学問分野につながっていることを簡単に紹介した。
休憩後、寺家ふるさと村で私が撮影した生物の写真を印刷したカードを使いながら、午前中に歩いた里山に生息する生物たちを、生物群集、あるいは生態系の観点から、どのように理解することができるか、班にわかれて自由に考えてもらった。何もヒントを与えない場合は、ほぼ全ての班が、中学受験で学習したことのある「栄養段階のピラミッド」を再現しようとするが、次第にそれだけでは捉えきれない種間関係を意識する班が多くなり、「Food Web」に近い種間関係に基づく図式化を試みる班、あるいはキノコから全ての生物の関係を俯瞰しようとする独創的なアイデアの班などが現れ、最後にやはり発表・ディスカッションを行った。


<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
初めての「科学コミュニケーション」の機会となり、大変有意義であったと同時に、研究を通じて自分自身が学びを深める必要性を痛感する機会となった。「自然観察会」と「科学コミュニケーション」を組み合わせることが、特に自然体験の希薄な層に有効なのではないか、というアイデアを抱いていたのだが、今回は午後のワークショップにどの生徒もスムーズに導入でき、ディスカッションが非常に活発になったことは、その効果の一端でもあったのではないか、と感じている。もし次回の機会があれば、より定量的なデータ採取にもとづいたディスカッションを導入してみたい。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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