TMU logo
生命科学専攻
トップ
「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 埼玉県所沢市の「トトロの森」における昆虫観察会
実 施 者: 矢崎英盛(動物生態学研究室M2)
実施場所: 公益財団法人「トトロのふるさと基金」(埼玉県所沢市)
実 施 日: 2019年 6月 1日
対  象: 一般参加の親子、および大学生、計80名程度

<概要/目的>
公益財団法人「トトロのふるさと基金」は、埼玉県所沢市の狭山丘陵において「トトロの森」と名付けられた里山環境の保全管理を行うトラスト団体である。筆者は2016年より、同基金の主催する散策会・自然観察会、および生態調査にボランティアスタッフとして関わってきた。本報告では、昨年度に引き続き開催された、a. 6/1(土)・8(土)の「こんちゅうはかせとトトロの森たんけん」、および、b. 7/13(土)の夜間に行われた「夜の森のいきものとホタルの観察会」について報告する。


<方法/企画としての特徴>
自然観察会の運営にあたってしばしばボトルネックになるのは、「自然観察」という企画名を提示した時点で、それなりに自然に関心のある参加者が集まりがちであり、本来アプローチしたい自然に関心の薄い層への接触が難しいことである。「トトロの森」は、その名称やブランドイメージから、普段自然に触れる機会のない客層と接することが可能であり、また昆虫は特に親子連れに対しての訴求力が高いことから、そこを出発点に長期的な視点で自然に親しみを深めてもらうための原体験を提供するために効果的なアプローチとなりうる。
今回、aの会では、トトロの森の中を歩きながら、実際を昆虫をはじめとする生物に触れる中で、講師から一方的に知識を与えるのではなく、参加者に能動的に生物との関わり方を探ってもらい、最終的には参加者の日常生活の中に自然との親しみの意識を落とし込むことを目標とした。
またbの会では、筆者の専門である蛾類について、ライトトラップを通じてその生態を解説する機会となった。同時に保育士を目指す学生に対して、ホタルという一般に親しみやすい対象を含めた昆虫類を題材に、次世代への教育を通じた二次的・三次的な自然への関心の喚起へのきっかけを作ってもらうことを目標とした。

<活動内容/具体的成果>
a. 「こんちゅうはかせとトトロの森たんけん」9:00-12:00
各回20名前後の参加者を講師4人で2班に分担して、実際にトトロの森を歩きながら、特に小学生以下の子供とその両親を中心に、昆虫の観察と解説を行った。全体運営はトトロのふるさと基金の花澤氏がとりまとめた。
今回の2日間はいずれも天候が不安定で、季節の進みの遅さもあって、必ずしも観察対象になる昆虫が目立つ状況とは言えなかった。そこで「隠れている昆虫をどのように探し出すか」をテーマに、まず葉の食痕、昆虫の集まる花、樹液、きのこなどに注目することで、間接的に昆虫の存在を発見する方法を紹介した。そのプロセスを通じて、昆虫と対になる食草の概念、あるいは捕食者から身を守るための警告色や隠蔽擬態についても、エゴツルクビオトシブミやウスタビガの幼虫のような具体例を用いて解説した。その後、森の中では、自由に観察対象を探してもらいながら、逐次参加者の能動的な疑問を喚起し、自発的に考えてもらう時間を重視した。最後に、樹液に集まる昆虫の観察を題材に、そもそも樹液が出る樹木はなぜここに生えているのか、という観点から、社会との関係についての視点を喚起し、生活の中に自然との親しみを落とし込むことを試みた。

b. 「夜の森のいきものとホタルの観察会」18:00-21:00
30名前後の一般参加者を2班に分担して、夕暮れの森の昆虫と、湿地でのヘイケボタルの飛翔を観察した。全体運営はトトロのふるさと基金の児嶋氏がとりまとめた。加えて、白梅学園短期大学の保育課程の学生約10名に、子どもたちの安全管理と野外体験研修を兼ねて、ご参加いただいた。
私は、森の昆虫の解説担当として、雑木林に設置したライトトラップに飛来する昆虫、および、周辺の樹液で観察される昆虫類を、参加者に紹介した。またそこで観察されるカブトムシや蛾類と、二次林という環境、そして人間との関わりについて提示し、生活の中に自然との親しみを落とし込むことを試みた。また今回の観察会は夜間の昆虫類の記録を兼ねており、後日、トトロのふるさと基金から毎年発行される環境調査報告書において、報文として結果を発表する予定である。


<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
事後アンケートの結果からは、昨年に引き続き、参加者から概ね好評を得られた。いずれの会においても、私が大学院で研究する生態学、そして専門の蛾類について、その意義を伝えるという目標は、十分に達成されたと考える。
Aの会においては、天候不順などの影響で事前に準備したワークショップなどが実施できなかった場合も、観察の角度を変えることで参加者に十分に自然の魅力を紹介する臨機応変さを養うことができた。またbの会では、夜間の観察会における安全対策の重要性について経験を積み、またそれを次世代への教育を担う保育課程の学生に対して伝えることができた点で、有意義であったと考える。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
TOKYO METROPOLITAN UNIVERSITY