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生命科学専攻
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「大学院教育改革支援プログラム」:アウトリーチ

タイトル: 聖光学院中学校・高等学校における生態学の課外授業
実 施 者: 矢崎英盛(動物生態学研究室M2)
実施場所: 寺家ふるさと村(神奈川県横浜市)
実 施 日: 2019年 8月 26日
対  象: 生徒30人程度

<概要/目的>
横浜市の聖光学院中学校・高等学校では、近年「探求学習」という主題で、生徒たちが自主的・能動的にテーマを深める学習活動を重視している。昨年に引き続き、横浜市内で里山環境に身近に接することのできる寺家ふるさと村を会場に、実際に自然に触れる体験を行なった上で、それをどう解釈し理解を深めるか、ワークショップを通じて、私が学ぶ生態学の一端を紹介する、という課外授業を企画した。


<方法/企画としての特徴>
聖光学院はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定される学校であるが、3年前に、同校での昆虫観察の企画を行った時は、多くの生徒たちが、理科の学習を通じての昆虫の知識は豊富であるものの、実際に昆虫を手に取ったことがあるのは数える程の人数であり、また虫網の中に昆虫を入れても、それを取り出すことができない、といった場面にしばしば出会ったことが印象的であった。それを踏まえて昨年は、午前中に昆虫採集を実際に体験させてから、午後にその昆虫を用いて生態学の入門講義を行う、という企画を行い、好評を得た。
本年も、昆虫採集の体験を素地とするというプロセスを踏襲した上で、昨年は定性的な解説が中心であった午後の講座の時間を、スケッチを中心とする定性的な観察と、定量的な計測による環境の理解という生態学の方法論を、より効果的に対照させることを試みた。


<活動内容/具体的成果>
8/26(月)・27(火)とも、基本的に晴天に恵まれ、2日間で約15人ずつを対象に講座を行った。午前(9:00-12:00)の昆虫採集では、40cm径の捕虫網と虫かご、およびチャック付きの透明プラスチックバッグを配布し、虫網の使用法の指導などを行いながら、2-3時間かけて、野外での昆虫採集を行なった。谷戸に作られた水田を中心とする寺家ふるさと村の環境ではトンボ類やバッタ類が豊富であり、最終的に全ての生徒が自らの網で昆虫を捕らえ、網から取り出して飼育ケースに入れる作業を体験できた。採集の際は、すぐに名前を教えて解説するのではなく、まず目の前にある実物を観察することを意識させた。
午後(13:00-16:00)は、ビジターセンターの講習室にて、透明のプラスチックバッグの中の昆虫を、色鉛筆と画用紙を用いて観察・スケッチを行い、終了後にそれぞれのスケッチ、および気づいた点・疑問点を発表し、ディスカッションを行なった。その後「ティンバーゲンの4つのなぜ」を紹介しながら、それぞれ生徒の抱いた生物への疑問を深めるためには多様なアプローチがありうること、それが生物学の多様な学問分野につながっていることを簡単に紹介した。
休憩後、定性的な観察であるスケッチを通じて得た疑問点を、定量的な見地から検証する、という課題を行った。3-4人のグループで、それぞれの班ごとに一つの疑問点をまとめてもらい、私とディスカッションしながら実験方法を決めて対象の昆虫を測定し、最後に「仮説→方法→結果→考察」の4枚の紙芝居にまとめて、班ごとに発表した。各班では、バッタの体サイズ比の種間比較や、トンボの呼吸数の性ごとの比較など、観察から生まれた独創的なアイデアに基づく検証が行われ、客観的な数量に基づく考察による発表が行われた。最後に私から、定性的な観察と定量的な測定はどちらも有用な方法であり、それを繰り返して研究を進めることが大学院で学んでいる研究のプロセスであること、中高生でも身近な対象をもとに探求することは十分可能であることを、まとめのメッセージとした。


<感想/課題など(企画力/評価力/自主性等の向上を含む)>
昨年からプログラムを一部変更し、定性的な観察と定量的な測定を、実物の昆虫を前に体験してもらい、それをもとに考察する、という、より生態学の研究のプロセスに近い内容を生徒たちに伝えられたことは、私自身にとって非常に有意義であり、また新たなチャレンジとなった。一方で、昨年の食物網をテーマにしたワークショップの方が、自由な発想によるのびのびとしたディスカッションが実現できた側面もあり、一長一短であったと考える。来年も実施を依頼していただくことができたので、さらに内容をブラッシュアップして、私自身の生態学への学びの成果をぶつける場としたい。
©2015 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
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