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写真 蛋白質・オルガネラ分解機構研究室 (東京都医学総合研究所)
本研究室では、選択的なオートファジー、PINK1/Parkinの触媒する異常ミトコンドリア上のユビキチン化とマイトファジー、F-box 蛋白質の関与する分解機構などの研究テーマについて、分子から個体レベルまで多面的に研究を進めています。
教 員
准教授 松田 憲之 e-mail
ミトコンドリアのユビキチン化と品質管理に着目しながらパーキンソン病の発症メカニズムを解明する
(1) 研究の背景と目的
 パーキンソン病(PD)は国内に15万人もの患者がいる難治性の神経の病気である。病気の主因はドパミンニューロンの変性・脱落であり、対症療法としてのドパミン補充治療が効果を上げているが、病気を完治できるわけではなく、原因の解明と根本的な治療法の開発が望まれている。

 病理学や薬理学の知見から、1990年代には低品質ミトコンドリアが神経細胞内で増加することがPDの発症に関係すると考えられていた。しかしながら、異常なミトコンドリアが蓄積する理由や、細胞がそれに対抗して“異常ミトコンドリアを除去する”防御機構の詳細は不明であった。

 PDには遺伝性のものと非遺伝性(孤発性)のものが存在し、両者の病因には共通項があると考えられる。PINK1(プロテインキナーゼ)とParkin(ユビキチン連結酵素・E3)は劣性遺伝性PDの原因遺伝子産物であり、通常時はPDの発症を抑えている。そこで我々はPINK1やParkinの分子機能を解明することで孤発性も含めたPDの発症機構に迫ろうと考えた。


(2) 研究の方法と主な成果
 まず我々は試験管内でParkinのE3活性をモニターする実験系を確立した(JBC 2006)。次にこの系を応用して、細胞内でParkinのE3活性の測定を試みたが、上手くいかなかった。しかし2008年にアメリカのRichard Youleらが「Parkinが膜電位の低下したミトコンドリアに移行する」ことを報告し、この論文から手がかりを得てミトコンドリア膜電位を低下させると、細胞内でもParkinのE3活性を明瞭に観察できることを発見した。この結果は“Parkinがミトコンドリアの膜電位の低下に依存して活性化されるE3である”ことを意味している。さらに、このParkinの活性化にPINK1が必須であることを発見した(JCB 2010)。

 そこでミトコンドリアの状況に応じて、PINK1がどのように制御されるのかを調べた。膜電位のある正常ミトコンドリアではPINK1は速やかに分解されるが、膜電位が低下すると分解が停止して異常ミトコンドリア上に蓄積することを発見した(JCB 2010, JCS 2015)。さらに、膜電位の低下時にPINK1が2量体を形成してS228/S402を自己リン酸化し、これがPINK1の機能に必須であることも見出した(Nature Commun 2012)。これらの結果は、PINK1 が自身の分解と自己リン酸を介して膜電位をモニターする“ミトコンドリア品質の監視役”であることを示している。

 PINK1はキナーゼなので、リン酸化される基質の同定が必須である。候補者はPINK1基質を探索し、PINK1はParkinのS65をリン酸化するが(JBC 2013)、それ以上に重要なことにPINK1がユビキチンのS65をリン酸化して、それが「Parkinの活性化」に必須であることを見出した。更なる解析から、膜電位低下時にPINK1によって形成されるリン酸化ユビキチンがParkin活性化因子であることを明らかにした(Nature 2014)。さらに光架橋性アミノ酸を用いた生化学的な解析から、Parkinとリン酸化ユビキチンの結合様式を分子構造レベルで提唱した(JBC 2015)。

 前述のように、YouleらはParkinが膜電位の低下したミトコンドリアに移行することを報告したが(JCB 2008)、候補者はこのプロセスにもPINK1が必須であることを発見した(JCB 2010)。さらに、ユビキチンがPINK1の基質であることを念頭に、リン酸化ユビキチンがParkinの細胞内局在変化をも制御する可能性を検討し、リン酸化ポリユビキチン鎖が受容体となってParkinを異常ミトコンドリアに呼び寄せることを発見した(JCB 2015)。ParkinはE3なので、異常ミトコンドリア上に移行したParkinがユビキチン鎖を産生し、それがPINK1によってリン酸化されて別なParkinを呼び寄せる「正のフィードバックサイクル」が形成される。こうして異常なミトコンドリアが速やかにユビキチン化されることを証明した(JCB 2015)。

 膜電位の低下したミトコンドリアはユビキチン化された後に、プロテアソームやオートファジーによって分解されて細胞から除去される。このプロセスが破綻すると、低品質ミトコンドリアや活性酸素種が蓄積して、PD発症を引き起こすのだろう。ほぼ全ての患者由来のミスセンス変異が上記プロセスを阻害することからも、「膜電位を失った低品質ミトコンドリアを排除できないので、PINK1やPARKINの変異に由来する遺伝性PDが発症する」ことが示唆される。


(3) 当該分野における研究業績の独創性とインパクト
 生体内の代表的な翻訳後修飾因子であるユビキチンが、リン酸化という翻訳後修飾を受けることでPDの発症を予防する機能をもつことは誰も予想し得なかったものである。膜電位の低下したミトコンドリア上のParkin受容体が“リン酸化されたポリユビキチン鎖”であることも、一般的な受容体の概念から逸脱したものであり、大きな驚きをもって迎えられた。しかしながら、国内外の研究者による追試から仮説の妥当性が確認されており、リン酸化ユビキチンとPDに関する総説がNeuron誌やGenes Dev.誌に掲載されたのはその正しさの証しである。このように、我々の仕事は高い独創性を有しており、当該分野に大きなインパクトを与えるものであった。


(4) 今後の研究の展開
 上述のように、我々は今までに遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物(PINK1/Parkin)の研究を通じて、PINK1/Parkinの触媒するユビキチン修飾がミトコンドリアの品質管理に必須であることや、この品質管理システムの破綻が遺伝性パーキンソン病を引き起こすことを明らかにしてきた。それらの研究をさらに発展させるために、今後は以下の課題に挑戦してもらう予定である。
(詳細はhttp://www.igakuken.or.jp/protein/jpn/research/matsuda-team.html参照)。
(1)個体分子遺伝学を用いたパーキンソン病のモデルマウス・モデルショウジョウバエの確立
(2)ミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)機構の細胞生物学的手法を用いた研究
(3)パーキンソン病の発症と関連するミトコンドリア品質管理機構の詳細な分子メカニズムの解明
(4)遺伝性パーキンソン病の新たな原因遺伝子産物 DJ-1 の生化学的な機能解析
(5)PINK1/Parkinとユビキチンの関係をより深く理解する為の生化学・細胞生物学的な解析
(6)遺伝性パーキンソン病の原因となる F-box タンパク質 Fbxo7 の機能解析
画像
最近の研究業績
  1. 2010年以降の代表的な英語原著論文および総説を記載
  2. Kojima, W., Kujuro, Y., Okatsu, K., Bruno, Q., Koyano, F., Kimura, M., Yamano, K., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  3. Unexpected mitochondrial matrix localization of Parkinson's disease-related DJ-1 mutants but not wild type DJ-1.
  4. Genes to Cells, 21 772–788 (2016)
  5. Yamano, K., Matsuda, N., and Tanaka, K.
  6. The ubiquitin signal and autophagy: an orchestrated dance leading to mitochondrial degradation.
  7. EMBO Reports, 17, 300-316 (2016)
  8. Matsuda, N.
  9. Phospo-ubiquitin: Upending the PINK-Parkin-ubiquitin cascade.
  10. J. Biochemistry, 159, 379-385 (2016)
  11. Matsuda, N. and Tanaka, K.
  12. Tagged tags engage disposal.
  13. Nature, 524, 294-295 (2015)
  14. Yamano, K., Queliconi, B.B., Koyano, F., Saeki, Y., Hirokawa, T., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  15. Site-specific interaction mapping of phosphorylated ubiquitin to uncover Parkin activation.
  16. J. Biol. Chem. , 290, 25199-25211 (2015)
  17. Okatsu, K., Koyano, F., Kimura, M., Kosako, H., Saeki, Y., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  18. Phosphorylated ubiquitin chain is the genuine Parkin receptor.
  19. Journal of Cell Biology, 209, 111-128 (2015)
  20. Matsuda, N. and Tanaka, K.
  21. The PARK2/Parkin receptor on damaged mitochondria revisited―uncovering the role of phosphorylated ubiquitin chains.
  22. Autophagy, 11, 1700-1701 (2015)
  23. Okatsu, K., Kimura, M., Oka, T., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  24. Unconventional PINK1 localization to the outer membrane of depolarized mitochondria drives Parkin recruitment.
  25. Journal of Cell Science, 128, 964–978 (2015)
  26. Koyano, F., Okatsu, K., Kosako, H., Tamura, Y., Go, E., Kimura, M., Kimura, Y., Tsuchiya, H., Yoshihara, H., Hirokawa, T., Endo, T., Fon, E-A., Trempe, J-F., Saeki, Y., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  27. Ubiquitin is phosphorylated by PINK1 to activate Parkin.
  28. Nature, 510, 162–166 (2014):
  29. Okatsu, K., Uno, M., Koyano, F., Go, E., Kimura, M., Oka, T., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  30. A dimeric PINK1-containing complex on depolarized mitochondria stimulates Parkin recruitment.
  31. J. Biol. Chem. , 288, 36372-36384 (2013)
  32. Iguchi, M., Kujuro, Y., Okatsu, K., Koyano, F., Kimura, M., Suzuki, N., Uchiyama, S., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  33. Parkin catalyzed ubiquitin-ester transfer is triggered by PINK1-dependent phosphorylation.
  34. J. Biol. Chem. , 288, 22019-22032 (2013)
  35. Koyano, F., Okatsu, K., Ishigaki, S., Fujioka, Y., Kimura, M., Sobue, G., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  36. The principal PINK1 and Parkin cellular events triggered in response to dissipation of mitochondrial membrane potential occur in primary neurons.
  37. Genes to Cells, 18, 672-681 (2013)
  38. Okatsu, K., Iemura, S-I., Koyano, F., Go, E., Kimura, M., Natsume, T., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  39. Mitochondrial hexokinase HKI is a novel substrate of the Parkin ubiquitin ligase.
  40. Biochem. Biophys. Res. Commun. 428, 197-202 (2012)
  41. Okatsu, K., Oka, T., Iguchi, M., Imamura, K., Kosako, H., Tani, N., Kimura, M., Go, E., Koyano, F., Funayama, M., Shiba-Fukushima, K., Sato, S., Shimizu, H., Fukunaga, Y., Taniguchi, H., Komatsu, M., Hattori, N., Mihara, K., Tanaka, K., and Matsuda, N.
  42. PINK1 autophosphorylation upon membrane potential dissipation is essential for Parkin recruitment to damaged mitochondria.
  43. Nature Communications, 3, e1016 (10 page) (2012)
  44. Okatsu, K., Saisho, K., Shimanuki, M., Nakada, K., Shitara, H., Sou, Y-S., Kimura, M., Sato, S., Hattori, N., Komatsu, M., Tanaka, K. and Matsuda, N.
  45. p62/SQSTM1 cooperates with Parkin for perinuclear clustering of depolarized mitochondria.
  46. Genes to Cells, 15, 887-900. (2010)
  47. Matsuda, N., Sato, S., Shiba, K., Okatsu, K., Saisho, K., Gautier, C., Sou, Y-S., Saiki, S., Kawajiri, S., Sato, F., Kimura, M., Komatsu, M., Hattori, N. and Tanaka, K.
  48. PINK1 stabilized by mitochondrial depolarization recruits Parkin to damaged mitochondria and activates latent Parkin for mitophagy.
  49. Journal of Cell Biology, 189, 211-221 (2010)
  50. Matsuda, N. and Tanaka, K.
  51. Uncovering the roles of PINK1 and Parkin in mitophagy.
  52. Autophagy, 6, 952 - 954 (2010)
©2017 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University