動物生態学研究室
動物生態学研究室では,おもに昆虫類,両生類,爬虫類など様々な動物について,生態,行動,進化の研究を行っています.特に,社会行動や性選択形質などの生態的形質の進化や表現型可塑性,その発生遺伝基盤について盛んに研究しています.研究手法に関しては,野外調査や野外における操作実験はもちろん,飼育下での実験,分子マーカーを用いた解析,分子系統樹の作製,次世代シーケンスやバイオインフォマティクス,定量PCR等による遺伝子発現解析,発生・生理学的解析,蛍光染色による顕微鏡観察など,様々な分野の手法を取り込んだ学際的アプローチを行っています.皆で議論しながら,各自が自由に研究できる雰囲気を大切にしています.
所属教員
研究内容
動物の生態と群集構造
キバヘビトンボのオス
動物の生態に関して,例えば,以下のような研究を行っています.1. 生活史(昆虫類や両生類の生活史特性として,卵サイズや成熟サイズはどのように適応的に決まるのか,など).2. 種間関係(水生昆虫群集において寄生や共生関係にはどのようなものがあり,互いにどのような影響を及ぼしているのか,寄生ダニ類とそれらの宿主の相互作用はどうなっているのか,種子散布者が植物の分布に及ぼす効果はどれくらい強いのか,など).3. 群集構造(ある特定の化学物質に誘因される特異な節足動物群集の構造とそれらの相互作用,など)
動物の集団遺伝構造と保全
アカネズミ
動物の集団遺伝構造に関して,例えば,以下のような研究を行っています.1. 移動分散能力と集団遺伝構造(ウスバキトンボなどの広域分布種の集団遺伝構造,など).2. 各種昆虫類の分子系統と地域変異(小笠原諸島や琉球列島のトンボ類などの種分化と固有種の検出,など).3. 外来種と在来種の哺乳類の集団遺伝構造(リス類の分子系統に基づく外来種の特定と在来種の保全,など)
表現型可塑性の生態発生学・進化生態学
動物の社会行動や性的形質など,生態学的にユニークな形質の進化をもたらす生理・発生・進化メカニズムの解明を行なっています.生物は育った環境や経験によって行動・形態を変えることができます.こうした柔軟性によって,絶えず変動する環境を生き抜き,時々刻々と変化する他個体との関係性に対してうまく立ち回っています(表現型の可塑性).なかでも,アリなどの社会性昆虫が持つカースト制や,カブトムシの角・クワガタの大顎に見られるような武器形質のバリエーションは,可塑性がもたらす驚くべき表現型変異(表現型多型)であり,動物の多様性と生存戦略を読み解く格好の題材です.近年は次世代シーケンサーなどを活用し,野外動物であっても遺伝子の配列情報や発現動態を解析することが可能です.研究室では行動学・発生学・生理学手法を駆使した多角的アプローチから可塑性のメカニズムと進化的意義の解明に取り組んでいます.
社会行動・性形質の研究事例
トゲオオハリアリは形態的な女王を持たないアリですが,特殊な順位闘争(翅の痕跡器官"ゲマ”の女王による切除)を介し,女王とワーカーが分化します.優位個体では攻撃性が維持され卵巣発達がみられる一方で,劣位個体は従順になり卵巣発達が抑制されます.こうした相互作用による行動的カースト分化は社会性の原始的段階を反映しており,その分子機構・生理機構を解明することで社会性・利他行動の進化メカニズム解明を目指しています.これまで,優位個体がインスリン経路遺伝子群や脳内ドーパミンの活性化によって女王化することや,劣位個体が繁殖をやめて栄養貯蔵を行うことで,ワーカー化する事が明らかになっています.また,行動パターンを定量化する自動追尾(トラッキング)を駆使して精密な行動解析を行い,社会状況(子育ての有無など)に応じた生理的応答の解明を行っています.
性形質の代表例として,昆虫の武器に注目した研究を進めています.オオツノコクヌストモドキは大きく発達した大顎を持ち,縄張りをめぐってオス同士で争う甲虫です.研究室では形態発生にかかわる遺伝子の発現解析や,RNAiによる遺伝子ノックダウン,形態計測学,行動観察などを組み合わせ,武器・性形質を進化させた遺伝・発生・生態メカニズムの解明を目指しています.これまで,インスリン様成長因子や幼若ホルモン(JH),エピゲノム制御(ヒストン脱アセチル化酵素HDAC)が武器サイズを決めることがわかってきました.
©2020 Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University